ミラー用金属膜コーティング
反射防止 (AR) コーティングと同様に、ミラー用の金属膜コーティングもスペクトル領域別にデザインされます。エドモンド・オプティクスは、一連の保護膜付き金属膜コーティングを用意し、下は250nmから上は10μmまでの波長を用いるアプリケーションに対して高反射特性を提供します。当社標準のミラー用金属膜コーティングの中には、保護膜付きアルミコート、反射強化アルミコート、UV反射強化アルミコート、保護膜付き金コート及び保護膜付き銀コートがあります。保護膜付きアルミと反射強化アルミコートは、可視アプリケーションに一般に用いられます。UV反射強化アルミコートは、UVと可視アプリケーションに用いることができます。保護膜付き金コートは、赤外か近赤外波長に対して高反射率を実現します。保護膜付き銀コートは、500~800nmの間で最も高い反射率が得られますが、膜の耐性の低さや曇り易さの点から、裏面鏡用の増反射膜として用いるのにより適しています。
表面鏡と裏面鏡
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Figure 2: 画像を拡大する
エドモンド・オプティクスは、ミラー用の様々な基板材料と形状を用意し、それに当社標準の金属膜コーティングやレーザーライン用コーティング、特注の広帯域用や狭帯域用コーティング、単波長や二波長用のレーザーコーティング、更にはレーザー単波長用のビームスプリッター用コーティングを施すことができます。当社のミラー製品は全て表面鏡デザイン (Figure 1参照)を採用しています。表面鏡デザインは、金属膜や誘電体多層膜などの 増反射コーティングをガラス基板の第一面上に蒸着したものです (なお一部のミラー製品は金属基板上に蒸着)。これに対し、裏面鏡デザイン (Figure 2参照)は、表面鏡デザインと同じように製作した後にコーティング面 (通常は銀膜)を保護用のカバーガラスプレートで覆っています。カバーガラスプレートにより、コーティング層が傷付いたり、酸化したりすることを防ぎます。光学実験や光学用の精密機器向けには、裏面鏡ではなく表面鏡の使用を当社は推奨しています。理由は以下の通りです (Figure 2も併せて参照):
- 裏面鏡のカバーガラスプレート面に入射した光は、透過する際に波長毎に分散されてしまう。分散した光がコーティング面で反射するため、得られる反射光の反射角も波長によって異なってしまう。
- カバーガラスプレート面で生じるフレネル反射 (表面反射)によって、反射光にゴースト像 (赤の破線で図示)が生じてしまう。
- フレネル反射が原因で、4%ほどの反射ロスが生じるため、裏面鏡を用いることでスループット効率を損ねてしまう。
ミラー用標準金属膜コーティングのスペック
保護膜付きコーティングとは?
金属膜は、機械強度の高くない、非常にデリケートなコーティングです。金属膜に保護膜が付いていないと、取扱いや洗浄の際に特別な注意を要します。金やアルミの金属膜がむき出しの状態の光学面は、一切触れないようにすべきです。誘電体の保護膜を金属膜上に施すことは、素子の取扱いを容易にするだけでなく、膜の耐久性を向上させ、金属膜自体の酸化を防ぎます。当社の保護膜付き金属膜コーティングを採用するミラーは、イソプロピルアルコールかアセトン液による手拭き洗浄が可能です。
Figure 3: ミラー用標準金属膜コーティングの分光反射曲線 - 理論上は波長10μmまでは反射率が徐々に上がっていきます
保護膜付きアルミコート (Protected Aluminum)
保護膜付きアルミコートは、可視や近赤外のアプリケーションに用いるミラー用コーティングの中でも最もポピュラーなものです。デリケートなアルミ膜を保護するために、½ 波長分の膜厚の一酸化シリコン (SiO) が保護膜として一般に用いられます。この加工により、アルミ膜としての性能を維持しながらも、摩擦に対する耐性を高めた光学面を実現します。
反射強化アルミコート (Enhanced Aluminum)
アルミの金属膜を適当な誘電体多層膜で保護することにより、可視、或いは紫外域 (UV)での反射率を高めます。反射強化アルミコート (Enhanced Aluminum)は、400~650nm 間の反射率を高める必要のあるアプリケーションに最適です。対する UV 反射強化アルミコート (UV Enhanced Aluminum)は、250~400nm 間の反射率を高めます。誘電体多層膜は、保護膜付きアルミコートと同様のハンドリング性も可能にします。
保護膜付き銀コート (Protected Silver)
銀コートは、可視や近赤外において高反射率が得られ、複数の波長にまたがる広帯域アプリケーションに対して格好の選択肢となります。銀コートに保護膜を施した保護膜付き銀コートは、曇りやすい銀の性質を緩和することができます。しかしながら、同コートの付いたミラーを使用する際は、低湿環境下での使用に限定してご使用いただくことを推奨します。
保護膜付き金コート (Protected Gold)
金コートは、近赤外や赤外において高反射率を求めるアプリケーションに効果的です。ハンドリング性を容易にするには耐性の高いコーティングが必要となるため、当社では金コートに保護膜を付けた状態でご用意しています。これにより、金の反射特性 (750~14000nm 間で96%の反射率) を維持しつつも、より耐性の高い仕上げとしています。
Table 1: ミラー用標準金属膜コーティングのスペック | |||
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名称 | 有効機能波長域 | 反射率の仕様 | 典型エネルギー密度限界 |
VUV 反射強化アルミ | 120-125nm | Ravg >78% | |
120-700nm | Ravg >88% | ||
DUV 反射強化アルミ | 190-195nm | Ravg >88% | |
190-600nm | Ravg >85% | ||
UV 反射強化アルミ | 250-450nm | Ravg >89% | 0.5 J/cm2 @ 355nm, 10ns |
250-700nm | Ravg >85% | ||
保護膜付きアルミ | 400-700nm | Ravg >85% | 0.3 J/cm2 @ 532nm & 1064nm, 10ns |
400-2000nm | Ravg >90% | ||
反射強化アルミ | 450-650nm | Ravg >95% | 0.2 J/cm2 @ 532nm, 10ns |
保護膜付き銀 | 450-2000nm | Ravg >98% | 0.5 J/cm2 @ 532nm & 1064nm, 10ns |
2000-10000nm | Ravg >98% | ||
Ultrafast Enhanced Silver | 600-1000nm | Ravg >96% | 0.3 J/cm2 @ 532nm & 1064nm, 10ns |
保護膜付き金 | 700-2000nm | Ravg >96% | 0.8 J/cm2 @ 1064nm, 10ns |
2000-10000nm | Ravg >96% | ||
Bare Gold | 700-800nm | Ravg >94% | |
800-20000nm | Ravg >97% | ||
2000-12000nm | Ravg >98% |
Figure 4: 金属膜ミラーコーティングの代表的分光反射率曲線
特注ミラー用コーティングへの対応
エドモンド・オプティクスは、ミラーやビームスプリッター、ウインドウや他の光学部品に対するレーザー用コーティングの設計と製造を先導して行っています。多くの試験機関に委託し、当社のコーティングのレーザー損傷に対する耐性の定性化と認証化を行っています。上記の典型エネルギー密度限界値は、正確な結果とするために、複数のコーティング製造ロットにまたがって試験され、得られたものです。なおこの値は、典型値として示した保守的な数値であり、実力値的にはこの値の2~3倍高いエネルギー密度にも耐えることができます。
当社は、単波長用や複数のレーザー波長用のコーティング、更には広帯域チューナブルレーザー光源用のコーティングの設計と製造を行うことができます。コーティングデザインに関しては、パーシャルミラーや出力用カプラー、エタロン向けも可能で、またどのような入射角や偏光状態のものでも設計することができます。当社が所有する世界屈指の製造設備は、λ/20以下の基板面精度と10-5の表面品質、0.5秒以下の平行度、5オングストローム以下の面粗さを持つ基板を生産することができ、どの種類のガラスや結晶材料にも対応することができます。また、試作や量産数量用に顧客が支給する基板にもコーティングいたします。
ハイパワーアプリケーションには、対象となる波長において低吸収特性を有する基板材料をコーティング設計者が選定します。しかしながら、ハイパワーアプリケーション用に用いることのできるコーティング材料の選択肢は限られているという現実も顧客は理解しておく必要があります。システム設計者はこの事を理解し、光学設計プロセスの初期段階から適当な損傷閾値を持った光学部品を念頭に入れてシステム設計していく必要があります。
紫外 (UV)レーザー用のコーティング材料は、可視や近赤外 (NIR)用に用いるそれとは異なるものが使われます。高反射コーティングを実現する際の膜設計は、1/4波長の光学膜厚を有する高屈折層と低屈折率層を交互に積層していく構造が一般的です。破損閾値の大小は、コーティングのデザインにより大きく変わります。1/2波長の光学膜厚を有する低屈折率層 (通常は二酸化ケイ素)を最終層として単純に加えることで、損傷閾値をある程度まで高めることができます。二酸化ケイ素 (SiO2)は、低屈折率層向けに一般的に用いられ、紫外や可視、そして近赤外レーザーアプリケーション用に好んで用いられる金属酸化物誘電体材料です。これに対して、高屈折率層向けに用いる材料の選定は、それほど単純ではなく、チタン酸化物やタンタル、ジルコニウム、ハフニウム、スカンジウム、ニオビウムなどが状況に応じて用いられます。
広帯域高反射 (BBHR) & 狭帯域高反射 (ノッチフィルター用)
- 可視広帯域: Ravg >98% @ 425-675nm: 0~45° 入射角
- ノッチフィルター: 中心波長 (CWL)ではR >90%, 半値全幅 (FWHM)はCWL x 0.12未満, ノッチ帯域以外の波長ではTavg >90%
- 300~1800nm (BBHR) もしくは350~850nm (ノッチフィルター用)の波長域内で特注コーティング対応
Figure 5: 画像を拡大する
単波長用と二波長用のレーザー用反射コーティング
- 190-3000nm (単波長用) もしくは 350-1700nm (二波長用)の波長域内で指定した1~2の波長で反射率を最大化
- 単波長用: R >99.5% @ 設計波長
- 二波長用: R >98.5% @ 指定二波長
Figure 6: 画像を拡大する
単波長用と二波長用のレーザー用反射コーティング
- 190-3000nm (単波長用) もしくは 350-1700nm (二波長用)の波長域内で指定した1~2の波長で反射率を最大化
- 単波長用: R >99.5% @ 設計波長
- 二波長用: R >98.5% @ 指定二波長
Figure 7: 画像を拡大する
レーザーライン用ビームスプリッター
- 顧客要件に基づき、R = 5~95%内で一部反射
- 反射率のスペック: R% = ±2%; 代表値: R% = ±1%
- 入射角45°のランダム偏光と非偏光バージョン
- 設計波長は250~3000nmまで
補足: どのグラフと数値も典型値であり、参照用としてのみご理解ください。
エドモンド・オプティクスの製品 – 標準金属膜コーティングを施した製品には以下のものがあります: | |||
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