光学ウインドウへの理解
光学ウインドウは、光学的に透明な平板で、通常は反射や吸収を最小限に抑えながら、特定波長範囲における透過率を最大化するようにデザインされています。外部環境から光学システムや電子センサーを保護する目的でよく使われます。ウインドウは、システム内に光学的なパワーを招かないため、材料の透過特性、光学面の仕様、およびアプリケーションに適合する機械的特性をベースに選択されなければなりません。
材料特性
ウインドウ基板の透過率、屈折率、および硬度などの材料特性は、アプリケーションに最適な選択のウインドウを決定する上で重要になります。エドモンド・オプティクスがウインドウとしてお届けするさまざまな材料の透過領域を下図に示します。
Figure 1: エドモンド・オプティクスのウインドウ基板の透過領域
アプリケーションに適したウインドウを選定する上で重要なその他の特性に、屈折率、アッベ数、比重、および熱膨張係数があります。以下の選定ガイドは、当社でラインナップするウインドウ基板の光学的、機械的、および熱的特性、またそのサイズや板厚範囲を一覧にしたものです。
ウインドウ選定ガイド | ||||||||
材料 | 屈折率 $ \small{\left(n_d \right)} $ | アッベ数 $ \small{\left(v_d \right)} $ | 比重 $\small{\left[ \tfrac{\text{g}}{\text{cm}^3}\right]}$ | 熱膨張係数 $ \small{ \left[ \frac{\text{μm}}{ \text{m}^{\text{o}} \text{C}} \right]} $ | 転移点 $ \small{\left[ ^{\text{o}} \text{C} \right]} $ | ヌープ硬度 | サイズ範囲 | 板厚範囲 |
アクリル (PMMA) | 1.49 | 58.0 | 1.18 | 72 | 115 | 18 | 25.4 - 203.2 x 254mm | 1.52mm |
B270 | 1.523 | 58.5 | 2.55 | 8.2 | 533 | 542 | 5 - 200mm | 1.0 - 4.0mm |
フッ化バリウム (BaF2) | 1.48 | 81.61 | 4.89 | 18.1 | 800 | 82 | 5 - 50mm | 1.0 - 3.0mm |
BOROFLOAT® | 1.472 | 65.7 | 2.20 | 3.25 | 820 | 480 | 5 - 200mm | 1.1 - 6.5mm |
フッ化カルシウム (CaF2) | 1.434 | 95.1 | 3.18 | 18.85 | 800 | 158.3 | 5 - 125mm | 1.0 - 12.7mm |
ダイヤモンド (C) | 2.38 | 55.3 | 3.51 | 37 | - | 7000 | 5 x 5 - 10mm | 0.5 - 0.7mm |
ゲルマニウム (Ge) | 4.003 | N/A | 5.33 | 6.1 | 936 | 780 | 5 - 150mm | 1.0 - 8.0mm |
Gorilla® ガラス | 1.509 | N/A | 2.44 | 7.88 | 843 | 5100 | 5 - 500 x 500mm | 0.4 - 2.0mm |
フッ化リチウム (LiF) | 1.392 | 97.29 | 2.64 | 37 | 600 | 102 | 5 - 50mm | 1.0 - 3.0mm |
フッ化マグネシウム (MgF2) | 1.413 | 106.2 | 3.18 | 13.7 | 1255 | 415 | 5 - 75mm | 1.0 - 6.0mm |
N-BK7 | 1.517 | 64.2 | 2.46 | 7.1 | 557 | 610 | 2 - 200mm | 0.2 - 10.0mm |
ポリカーボネート | 1.585 | 34.0 | 1.21 | 65 | 145 | - | 25.4 - 203.2 x 254mm | 1.52mm |
臭化カリウム (KBr) | 1.527 | 33.6 | 2.75 | 43 | 730 | 7 | 13 - 50mm | 1.0 - 5.0mm |
サファイア | 1.768 | 72.2 | 3.97 | 5.3 | 2000 | 2200 | 1 - 150mm | 0.4 - 5.0mm |
シリコン (Si) | 3.422 | N/A | 2.33 | 2.55 | 1500 | 1150 | 10 - 76.2mm | 1.0 - 6.0mm |
塩化ナトリウム (NaCl) | 1.491 | 42.9 | 2.17 | 44 | 801 | 18.2 | 13 - 50mm | 1.0 - 5.0mm |
タリウム化合物 (KRS-5) | 2.615 | N/A | 7.37 | 6.0 | - | 40.2 | 12.7 - 50.8mm | 1.0 - 6.0mm |
サーモセット ADC (CR-39®) | 1.501 | 59.2 | 1.32 | - | - | - | 5.0 - 254 x 304.8mm | 1.5mm |
UVグレード 合成石英 | 1.458 | 67.80 | 2.20 | 0.55 | 1000 | 500 | 2 - 200mm | 1.0 - 5.0mm |
ジンクセレン (ZnSe) | 2.403 | N/A | 5.27 | 7.1 | 250 | 120 | 5 - 127mm | 1.0 - 8.0mm |
硫化亜鉛 (ZnS) | 2.631 | N/A | 5.27 | 7.6 | 1525 | 120 | 12.5 - 76.2mm | 1.0 - 8.0mm |
屈折率
屈折率は、光学媒質中の光の速度に対する真空中の光の速度の比で、光が材料を通過するときにどの程度速度を落とすかを表します。光学ガラスの屈折率 $ \small{\left (n_d \right) } $ は、587.6nmのヘリウムのd線波長で規定されます。一般的に、低屈折率のガラスは「クラウン」、高屈折率のガラスは「フリント」と呼ばれます。
アッベ数
アッベ数 $ \small{\left(v_d \right)} $ は、材料の分散、つまり波長による屈折率変動を表します。$ \small{n_F} $ と $ \small{n_C} $ はそれぞれ486.1nm (水素のF線) と656.3nm (水素のC線) での屈折率で、$ \frac{\left (n_d -1 \right) }{\left (n_F - n_C \right) } $ で定義されます。低いアッベ数は、分散が大きいことを表します。クラウンガラスは、フリントよりもアッベ数が高くなる傾向があります。
比重
ガラスの比重は、軽量化を重視するアプリケーションに不可欠な光学アッセンブリの重量を決定するのに役立つため、考慮することが重要です。一般的に、比重が高くなるとガラスの屈折率も高くなります。しかしながら、屈折率と比重の関係は線形ではありません。
熱膨張係数
熱膨張係数は、温度変化によってガラスの大きさがどのように変化するかを表します。この特性は、極度の温度や急激な温度差を伴うアプリケーションに重要な要素です。
ヌープ硬度
ガラスのヌープ硬度は、圧痕に対する抵抗力を表す尺度です。所定の圧子を用いて一定の力を加え、その結果生じる圧痕の深さを測定することで求められます。圧痕が小さいほどヌープ硬度は高くなります。一般的に、高ヌープ硬度の材料は、同硬度の低い材料よりも脆くなく、より大きな圧力差に耐えることができます。
光学面の仕様
光学ウインドウの面の仕様は、光学性能に影響を及ぼすことから、ウインドウの選定または規定の際に考慮されなければなりません。光学ウインドウがアプリケーション要件を満たすために公差が適切であることは重要ですが、オーバースペックの公差をもつウインドウは、不必要にコスト高になります。
表面品質 (キズ-ブツ)
光学ウインドウの表面品質は、製造または取り扱い中に発生する表面欠陥の評価になります。こうした欠陥は、通常はスループットのわずかな低下や散乱光のわずかな増加を引き起こしますが、イメージングや集光の大抵のアプリケーションでは、システム全体の性能にほとんどかまったく負の影響を与えません。しかしながら、画像システムにおいて表面欠陥面にピントが合ってしまうと、それが画像として目だってしまうため、その場合は表面欠陥をより厳しい仕様にしなくてはなりません。またウインドウをハイパワー光源に用いると、エネルギーの吸収を増加させて、ウインドウを損傷させてしまう恐れがあるため、表面欠陥に対して敏感になります。
表面品質は、米国規格 MIL-PRF-13830B のスクラッチ-ディグ規格によって表されることが多々あります。スクラッチ (キズ) の大きさは、制御された照明条件下で、対象面上にあるスクラッチ (キズ) を一連の標準スクラッチと比較することによって決定されます。これは、キズの寸法そのものを直接測定するものではありません。一方のディグ (ブツ) の大きさは、ディグ (ブツ) の大きさに直接関係します。ブツの大きさは、ブツの直径をミクロン単位で測り、それを10で割ることによって表されます。
Figure 2: 表面品質検査
スクラッチ-ディグ (キズ-ブツ) | 説明 |
80-50 or 60-40 | 商用グレードのアプリケーションや表面品質を重要視しない場合に最も一般的に適用される表面品質スペック。画像システム用のウインドウは、通常はこのカテゴリーに該当する。費用対効果の最も高いウインドウオプション。 |
40-20 | 表面品質を重要視する精密アプリケーションに適用。低出力から中出力のレーザーシステムや小径光学部品に一般的に用いられる。表面品質のグレードが低いウインドウに対してコストは割高になる。 |
20-10 or 10-5 | 表面品質を重要視する高出力レーザーシステムや超高精度システムにほぼ独占的に適用される。この表面品質グレードのスペックは、一般的にかなり割高のコストになる。 |
Table 2: アプリケーション別に必要になるスクラッチ-ディグ (キズ-ブツ) 仕様
スクラッチ-ディグ (キズ-ブツ) 仕様の追加情報は、表面品質の規格を米国規格 MIL-PRF-13830B に基づき理解するのアプリケーションノートをご覧ください。
平面度
平面度は、完全に平らな面に対する対象ウインドウ面の偏差を表します。被検面の平面度は、高度な精密平面基準面となるオプティカルフラットを用いて測定されます。被検ウインドウの面をオプティカルフラットに重ねると干渉縞が現れ、その縞の形状を見ることで被検ウインドウの平面度がわかります。縞が等間隔、真っすぐかつ平行であれば、そのウインドウの面は少なくとも基準面と同程度の平面度をもつことがわかります。縞が曲がっている場合、平面度の誤差は2本の仮想線 (縞の中心に接する線と、同じ縞の両端を通る線) 間にある縞の本数で表されます。平面度の偏差は、通常は波長 (λ) の値、つまり検査光源の波長の変数で表されます。縞の本数は、一波長の半分の大きさに相当します。1λの平面度は一般的なアプリケーションに用いられますが、高出力レーザーシステムのような高精度アプリケーションにはλ/20まで平面度を厳しくしたものが要求されます。
Figure 3: オプティカルフラットの仕組みを模した図解
平面度 | 説明 |
≥1λ | 商用グレードのアプリケーションや表面品質を重要視しない場合に一般的に用いられる。費用対効果の最も高いウインドウオプション。 |
λ/4 | 表面品質を重要視する精密アプリケーションに適用。低出力から中出力のレーザーシステムや小径光学部品に一般的に用いられる。表面品質のグレードが低いウインドウに対してコストは割高になる。 |
≤λ/10 | 高出力レーザーシステムや高精度のイメージングシステムに用いられる。平面度≤λ/10の場合は、一般的にかなり割高のコストになる。 |
Table 3: アプリケーション別に必要となる平面度スペック
垂直入射以外の視野角でウインドウを使用する場合、平面度はますます重要になります。表面品質、平面度、およびその他の面に関する仕様の追加情報は、光学的仕様への理解のアプリケーションノートをご覧ください。
透過波面誤差
面の誤差、屈折率の不均一性、およびウインドウへの応力は、透過波面誤差を引き起こします。透過波面の歪みは、画像形成システムでは画質の劣化を、非画像システムではその他の性能低下を引き起こします。透過波面誤差は、ウインドウを適切に固定して不必要な応力を与えないようにすることで低減することができます。透過波面誤差は、平面度とともに、ウインドウの全体的な品質と表面特性を表します。さまざまなタイプの波面誤差、または光学収差に関する追加情報は、光学収差の比較のアプリケーションノートをご覧ください。
反射防止 (AR) コーティング
反射防止 (AR) コーティングは、光学ウインドウ上に施され、所望する波長範囲内での透過率を最大化します。エドモンド・オプティクスは、全てのTECHSPEC® ウインドウにさまざまな反射防止 (AR) コーティングオプションを用意しており、透過率を高め、コントラストを向上させ、ゴーストイメージを排除することで光学部品の効率を大幅に改善します。大抵のARコーティングは耐久性にも優れ、物理および環境的な損傷に対する耐性があります。こうした理由から、大半の透過型光学部品には、何らかの反射防止コーティング付きをラインナップしています。特定アプリケーションに向けてARコーティングを特定する場合、まずはシステムの全スペクトル領域を十分に理解する必要があります。ARコーティングは、光学システムの性能を大幅に向上させますが、設計波長範囲外の波長でコーティングを使用すると、その領域ではシステム性能を低下させる可能性があります。下のグラフは、当社が提供するすべての標準ARコーティングの典型分光反射率特性を表します。
ARコーティングに関する追加情報および当社の完全なARコーティングタイプのコーティング曲線の詳細は、反射防止コーティングのアプリケーションノートををご覧ください。
同等のガラスタイプ
多くの光学ガラスメーカーが、殆ど等しい光学特性を持ったガラスを独自の呼称で製造・販売しており、そのほとんどがECOフレンドリー (鉛とヒ素を含まない) なエコガラス製品や工程に変更しています。エドモンド・オプティクスは、TECHSPEC® 製品の多くにエコガラスを用いていますが、この情報がすべての製品プレゼンに反映されていない可能性があります。TECHSPEC® 製品以外、すなわちエドモンド・オプティクスによって製造されていない製品の場合、エコガラスの使用状況は、その製造業者によって異なります。一旦エコガラスに変更された製品は、非エコガラスに戻ることはありません。材料の在庫状況に応じて、当社は当社の生産過程で同等のエコガラスに置き換えて生産する権利を有します。代表的な光学ガラスのガラスメーカー別同等ガラス一覧は以下の表の通りです。
ガラスメーカー別同等ガラス | ||||
掲載ガラス名 | ガラスコード | Schott製同等ガラス | オハラ製同等ガラス | CDGM製同等ガラス |
N-BK7 | 517/642 | N-BK7 | S-BSL7 | H-K9L |
N-K5 | 522/595 | N-K5 | S-NSL5 | H-K50 |
N-PK51 | 529/770 | N-PK51 | – | – |
N-SK11 | 564/608 | N-SK11 | S-BAL41 | H-BaK6 |
N-BAK4 | 569/561 | N-BAK4 | S-BAL14 | H-BaK7 |
N-BAK1 | 573/576 | N-BAK1 | S-BAL11 | H-BaK8 |
N-SSK8 | 618/498 | N-SSK8 | S-BSM 28 | – |
N-PSK53A | 618/634 | N-PSK53A | S-PHM52 | – |
N-F2 | 620/364 | N-F2 | S-TIM 2 | H-F4 |
S-BSM18 | 639/554 | – | S-BSM18 | H-ZK11 |
N-SF2 | 648/338 | N-SF2 | S-TIM 22 | H-ZF1 |
N-LAK22 | 651/559 | N-LAK22 | S-LAL54 | H-LaK10 |
S-BAH11 | 667/483 | – | S-BAH 11 | H-ZBaF16 |
N-BAF10 | 670/472 | N-BAF10 | S-BAH 10 | H-ZBaF52 |
N-SF5 | 673/322 | N-SF5 | S-TIM 25 | H-ZF2 |
N-SF8 | 689/312 | N-SF8 | S-TIM 28 | H-ZF10 |
N-LAK14 | 697/554 | N-LAK14 | S-LAL14 | H-LAK51 |
N-SF15 | 699/301 | N-SF15 | S-TIM35 | H-ZF11 |
N-BASF64 | 704/394 | N-BASF64 | – | – |
N-LAK8 | 713/538 | N-LAK8 | S-LAL8 | H-LAK7 |
S-TIH18 | 722/293 | – | S-TIH18 | – |
N-SF10 | 728/284 | N-SF10 | S-TIH10 | H-ZF4 |
N-SF4 | 755/276 | N-SF4 | S-TIH4 | H-ZF6 |
N-SF14 | 762/265 | N-SF14 | S-TIH14 | – |
N-SF11 | 785/258 | N-SF11 | S-TIH11 | H-ZF13 |
SF65A | 785/261 | SF65A | S-TIH23 | – |
N-LASF45 | 800/350 | N-LASF45 | S-LAM66 | H-ZLaF66 |
N-LASF44 | 803/464 | N-LASF44 | S-LAH65 | H-ZLaF50B |
N-SF6 | 805/254 | N-SF6 | S-TIH 6 | H-ZF7LA |
N-SF57 | 847/238 | N-SF57 | S-TIH53 | H-ZF52 |
N-LASF9 | 850/322 | N-LASF9 | S-LAH71 | – |
S-NPH2 | 923/189 | – | S-NPH2 | – |
N-SF66 | 923/209 | N-SF66 | – | – |
特注ウインドウがご希望ですか?
当社のグローバルな製造対応力で、お客様のご要望にお応えします。
- 3 - 500mmまでのサイズ、0.2mmからの板厚で対応
- Schott、HOYA、オハラ、およびCDGM社の標準ガラスカタログから数十種の材料
- フッ化物、Ge、Si、ZnS、ZnSeをはじめとする赤外透過材料
- 広帯域、レーザーライン、ITO導電膜をはじめとする多様な反射防止コーティング
- 当社の二次加工サービスを用いて在庫販売する未コート基板上に迅速コーティング
- すべてのフロートガラス材料で迅速な特注サイズ対応
もしくは 現地オフィス一覧をご覧ください
クイック見積りツール
商品コードを入力して開始しましょう
Copyright 2023, エドモンド・オプティクス・ジャパン株式会社
[東京オフィス] 〒113-0021 東京都文京区本駒込2-29-24 パシフィックスクエア千石 4F
[秋田工場] 〒012-0801 秋田県湯沢市岩崎字壇ノ上3番地