光学ガラス
光学ガラスの仕様
硝材の選定は、その特性が硝種毎に異なってくることから、時にとても重要になります。エドモンド・オプティクスは、様々な硝材から作られた光学部品を販売しており、以下に記載した諸特性を基にして適切な材料の選定を検討することができます。
ガラスの屈折率やアッベ数は、システム設計の際の自由度として光学設計者が参考にする代表的特性です。屈折率は指定波長における真空中における光速と対象ガラス媒質中における光速の比を表すのに対して、アッベ数は特定波長域における色分散量 (屈折率の変位量)を表します。例えば、屈折率が高いと、光の向きをより効率的に曲げられるため、レンズの曲面形状をきつくする必要がなくなります。これにより、屈折率が高いほどレンズの球面収差の発生量がより少なくなるのに対し、屈折率が低いほど硝材内を通る光がより速く伝搬します。また、アッベ数が高いと色分散の量が少なくなり、色収差の発生がより少なくなります。なお特定の硝種は、他の硝種とは大きく異なる透過波長域を有します。
ガラスの比重は、光学アッセンブリの重量を見極めるのに役立ち、重量を気にする必要のあるアプリケーションにとっては、レンズ直径と併せてとても重要となる特性です。比重は、ガラスとしての能力にも一般的に関係し、材料コストに比例します。また過酷な温度条件下や温度の急激な変化のあるアプリケーションで光学部品を使用する際は、ガラスの熱膨張係数がキーファクターになります。オプトメカニカルデザイナーは、光学アッセンブリ品を設計する際にこのことを念頭に入れておく必要があります。
多くの光学ガラスメーカーが、殆ど等しい光学特性を持ったガラスを独自の呼称で製造・販売しています。エドモンド・オプティクスでは、光学部品製造時に迅速なガラスの調達が出来るよう、これらのガラスを同一と見なして、複数のガラスメーカーから材料を調達しています。本カタログに記載のガラス名の多くは、代表的な Schott社 (ドイツ)の呼称で記述していますが、実際は Schott 社の光学ガラスではない同等特性の他社製ガラスが使用されている場合もあります。しかしながら、ガラスメーカーの違いによって光学部品の性能に影響が出ることはまずありません。
Table 1: 硝種別他社比較 | ||||
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本カタログに記載した 硝材名 | ガラスコード* | Schott製の 同等ガラス | オハラ製の 同等ガラス | CDGM製の 同等ガラス |
N-BK7 | 517/642 | N-BK7 | S-BSL7 | H-K9L |
N-K5 | 522/595 | N-K5 | S-NSL 5 | H-K50 |
N-PK51 | 529/770 | N-PK51 | – | – |
N-SK11 | 564/608 | N-SK11 | S-BAL 41 | H-BaK6 |
N-BAK4 | 569/561 | N-BAK4 | S-BAL 14 | H-BaK7 |
N-BAK1 | 573/576 | N-BAK1 | S-BAL11 | H-BaK8 |
N-SSK8 | 618/498 | N-SSK8 | S-BSM 28 | – |
N-PSK53A | 618/634 | N-PSK53A | S-PHM52 | – |
N-F2 | 620/364 | N-F2 | S-TIM 2 | H-F4 |
S-BSM18 | 639/554 | – | S-BSM18 | H-ZK11 |
N-SF2 | 648/338 | N-SF2 | S-TIM 22 | H-ZF1 |
N-LAK22 | 651/559 | N-LAK22 | S-LAL54 | H-LaK10 |
S-BAH 11 | 667/483 | – | S-BAH 11 | H-ZBaF16 |
N-BAF10 | 670/472 | N-BAF10 | S-BAH 10 | H-ZBaF52 |
N-SF5 | 673/322 | N-SF5 | S-TIM 25 | H-ZF2 |
N-SF8 | 689/312 | N-SF8 | S-TIM 28 | H-ZF10 |
N-LAK14 | 697/554 | N-LAK14 | S-LAL14 | H-LAK51 |
N-SF15 | 699/301 | N-SF15 | S-TIM35 | H-ZF11 |
N-BASF64 | 704/394 | N-BASF64 | – | – |
N-LAK8 | 713/538 | N-LAK8 | S-LAL8 | H-LAK7 |
S-TIH 18 | 722/293 | – | S-TIH 18 | – |
N-SF10 | 728/284 | N-SF10 | S-TIH 10 | H-ZF4 |
N-SF4 | 755/276 | N-SF4 | S-TIH4 | H-ZF6 |
N-SF14 | 762/265 | N-SF14 | S-TIH 14 | – |
N-SF11 | 785/258 | N-SF11 | S-TIH 11 | H-ZF13 |
SF65A | 785/261 | SF65A | S-TIH23 | – |
N-LASF45 | 800/350 | N-LASF45 | S-LAM66 | H-ZLaF66 |
N-LASF44 | 803/464 | N-LASF44 | S-LAH 65 | H-ZLaF50B |
N-SF6 | 805/254 | N-SF6 | S-TIH 6 | H-ZF7LA |
N-SF57 | 847/238 | N-SF57 | S-TIH 53 | H-ZF52 |
N-LASF9 | 850/322 | N-LASF9 | S-LAH71 | – |
S-NPH2 | 923/189 | – | S-NPH2 | – |
N-SF66 | 923/209 | N-SF66 | – | – |
* ガラスコード (或いはガラスコードナンバー) は、ガラスの屈折率とアッベ数をMILG-174 の規格に基づき記述したものです。一例として、N-BK7のガラスの場合は、屈折率 nd = 1.517、アッベ数 Vd = 64.2であることから、517/642と記述されます。
光学ガラスの諸特性
光学ガラスの品質やその無欠性は、今日の光学設計者にとっては当然とも言えるべき基本事項になっています。しかしながら、そのようになったのは、実はここ最近のことです。今から125年近く前、ドイツ人化学者のDr. Otto Schottは、光学ガラスの構造組成を体系的に研究開発したことで、同ガラスの製造に革命を与えました。Schott氏の開発作業と生産プロセスは、同ガラスを試行錯誤によって作り上げるものから、安定供給する真の技術材料へと一変させました。現在の光学ガラスの特性は、予見かつ再生産可能で、ばらつきの少ないものとなりました。光学ガラスの特性を決める基本特性は、屈折率、アッベ数、透過率の3つです。
屈折率
屈折率は、真空中における光速と対象ガラス媒質中における光速の比を表しています。換言すると、対象ガラス媒質を通過の際、光速がどれだけ遅くなるかを表しています。光学ガラスの屈折率 $ \small{n_d} $は、ヘリウムのd線での波長 (587.6nm)における屈折率として定義されます。屈折率の低い光学ガラスは、共通的に「クラウンガラス」と呼ばれ、反対に同率の高いガラスは「フリントガラス」と呼ばれます。
$$ C = 2.998 \times 10^8 \text{ } \tfrac{\text{m}}{\text{s}} $$
非球面係数が全てゼロの時、その面形状は円錐状になると考えられます。この時の実際の円錐形状は、上述の式中の円錐定数 $ \small{\left( k \right) } $の大きさや符号に依存します。以下の表は、円錐定数 $ \small{\left( k \right) } $の大きさや符号によってできる実際の円錐面形状を表します。
アッベ数
アッベ数は、波長に対する屈折率の変位量を定義し、光学ガラスの色分散に対する性質を表します。 アッベ数 $ \small{v_d} $は、$ \frac{\small{ \left( n_d - 1 \right)}}{\left( n_F - n_C \right)} $で算出されます。ここで$ \small{n_F} $と$ \small{n_C} $は、水素のF線 (486.1nm)と同C線 (656.3nm)における屈折率を各々表します。上述の公式から、高分散ガラスのアッベ数は低くなります。クラウンガラスは、フリントガラスに比べて低分散特性 (高アッベ数)になる傾向があります。
$ \small{n_d} $ = ヘリウムのd線, 587.6nmにおける屈折率
$ \small{n_f} $ = 水素のF線, 486.1nmにおける屈折率
$ \small{n_c} $ = 水素のC線, 656.3nmにおける屈折率
透過率
標準的光学ガラスは、可視スペクトル全域にわたり高透過率を提供します。また近紫外や近赤外帯においても高透過率です (Figure 1)。クラウンガラスの近紫外における透過特性は、フリントガラスに比べて高い傾向があります。フリントガラスは、その屈折率の高さから、フレネル反射 (表面反射)による透過損失が大きくなります。そのため、反射防止膜 (ARコーティング)の付加を常に検討する必要があります。
Figure 1: 代表的な光学ガラスの透過曲線
その他の特性
極度の環境下で用いられる光学部品を設計する場合、各々の光学ガラスは、化学的、熱的及び機械的特性において、わずかながらに異なることを留意する必要があります。これらの諸特性は、硝材のデータシート (光学ガラスメーカーのウェブサイトからダウンロード可能)から見つけることができます。
Table 2: ガラス全種の代表的特性 | |||||
---|---|---|---|---|---|
硝材名 | 屈折率 $ \left( \small{n_d} \right) $ | アッベ数 $ \left( \small{ v_d} \right) $ | 比重 ρ $\left[ \small{ \tfrac{\text{g}}{\text{cm}^3}} \right] $ | 熱膨張係数 α* | 転移点 Tg $\left( ^{\small{\text{o}}} \small{ \text{C}} \right) $ |
弗化カルシウム (CaF2) | 1.434 | 95.10 | 3.18 | 18.85 | 800† |
合成石英 | 1.458 | 67.70 | 2.20 | 0.55 | 1000† |
BOROFLOAT® | 1.472 | 65.70 | 2.20 | 3.25 | 450† |
S-FSL5 | 1.487 | 70.20 | 2.46 | 9.00 | 457 |
N-BK7 | 1.517 | 64.20 | 2.46 | 7.10 | 557 |
N-K5 | 1.522 | 59.50 | 2.59 | 8.20 | 546 |
B270/S1 | 1.523 | 58.50 | 2.55 | 8.20 | 533 |
ZERODUR® | 1.542 | 56.20 | 2.53 | 0.05 | 600† |
N-SK11 | 1.564 | 60.80 | 3.08 | 6.50 | 604 |
N-BAK4 | 1.569 | 56.10 | 3.10 | 7.00 | 555 |
N-BaK1 | 1.573 | 57.55 | 3.19 | 7.60 | 592 |
L-BAL35 | 1.589 | 61.15 | 2.82 | 6.60 | 489 |
N-SK14 | 1.603 | 60.60 | 3.44 | 7.30 | 649 |
N-SSK8 | 1.618 | 49.80 | 3.33 | 7.10 | 598 |
N-F2 | 1.620 | 36.40 | 3.61 | 8.20 | 432 |
BaSF1 | 1.626 | 38.96 | 3.66 | 8.50 | 493 |
N-SF2 | 1.648 | 33.90 | 3.86 | 8.40 | 441 |
N-LAK22 | 1.651 | 55.89 | 3.73 | 6.60 | 689 |
S-BaH11 | 1.667 | 48.30 | 3.76 | 6.80 | 575 |
N-BAF10 | 1.670 | 47.20 | 3.76 | 6.80 | 580 |
N-SF5 | 1.673 | 32.30 | 4.07 | 8.20 | 425 |
N-SF8 | 1.689 | 31.20 | 4.22 | 8.20 | 422 |
N-LAK14 | 1.697 | 55.41 | 3.63 | 5.50 | 661 |
N-SF15 | 1.699 | 30.20 | 2.92 | 8.04 | 580 |
N-BASF64 | 1.704 | 39.38 | 3.20 | 9.28 | 582 |
N-LAK8 | 1.713 | 53.83 | 3.75 | 5.60 | 643 |
N-SF18 | 1.722 | 29.30 | 4.49 | 8.10 | 422 |
N-SF10 | 1.728 | 28.40 | 3.05 | 7.50 | 454 |
S-TIH13 | 1.741 | 27.80 | 3.10 | 8.30 | 573 |
N-SF14 | 1.762 | 26.50 | 4.54 | 6.60 | 478 |
サファイア** | 1.768 | 72.20 | 3.97 | 5.30 | 2000† |
N-SF11 | 1.785 | 25.80 | 5.41 | 6.20 | 503 |
N-SF56 | 1.785 | 26.10 | 3.28 | 8.70 | 592 |
N-LASF44 | 1.803 | 46.40 | 4.46 | 6.20 | 666 |
N-SF6 | 1.805 | 25.39 | 3.37 | 9.00 | 605 |
N-SF57 | 1.847 | 23.80 | 5.51 | 8.30 | 414 |
N-LASF9 | 1.850 | 32.20 | 4.44 | 7.40 | 698 |
N-SF66 | 1.923 | 20.88 | 4.00 | 5.90 | 710 |
S-LAH79 | 2.003 | 28.30 | 5.23 | 6.00 | 699 |
ジンクセレン (ZnSe) | 2.403 | N/A | 5.27 | 7.10 | 250† |
シリコン (Si) | 3.422 | N/A | 2.33 | 2.55 | 1500† |
ゲルマニウム (Ge) | 4.003 | N/A | 5.33 | 6.10 | 100† |
* $ \tfrac{10^{-6}}{\small{^{\text{o}}} \text{C}} $
** 複屈折材料。記載した数値はC軸に平行な場合。
† 使用上限温度
光学ガラスの選定
Figure 2: 光学ガラスの屈折率とアッベ数の関係に、熱膨張係数を加味したEO独自のアッベダイアグラム
光学系の機能的特徴は、系全体で最適化されなければなりません。幾何学的な光学収差 (ザイデル収差)や色収差は、複数種の硝材を組み合わせることによってのみ補正することができます。また、求めるアプリケーションによって光学系への要求も異なってくるため、一部の硝材群だけを使用して全てを解決することはできません。そのため、広範な硝材が開発されています。硝材のラインナップ一覧は、屈折率とアッベ数をプロットした図表 (アッベダイアグラム)で伝統的に紹介されています。
アッベダイアグラムは、1923年に独SCHOTT社によって初めて紹介された、歴史の長い光学ガラス概覧です。各硝種はX軸にアッベ数 $ \small{ \left(v_d \right) } $、Y軸に屈折率 $ \small{ \left(n_d \right) } $とした二軸座標内にプロットされます。X軸の値は逆方向配置によって、右に進むにつれて数値が低くなります (Figure 2)。
硝材はタイプ別にBKやSK、FやSF等の名称に分類されます。各グループは、アッベダイグラム内の青線で区分けしたエリアのいずれかに該当します。クラウンガラスとフリントガラスを分ける重要な区分線も存在します (BKやSKなどの最終文字にある”K”は、ドイツ語の”Kron”(英語の”Crown”)から来ています。対するSFやLAFなどの最終文字にある”F”は、フリント”Flint”の頭文字から来ています)。この区分線は、アッベ数55 (屈折率1.60以下)と50 (屈折率1.60以上)の所に存在します。
硝材の名称の先頭文字は、含有する重要な化学物質を表します。FはFluorine (フッ素)、 PはPhosphorus (リン)、BはBoron (ホウ素)、BAはBarium (バリウム)、LAはLanthanum (ランタン)です。この名称の付け方の規則から外れる硝材は、クラウンガラスやフリントガラスのシリーズとは異なるものになります。K (Kron)やKF (Kronflint; クラウンフリントのこと)、またLLF (Very light flint)やLF (Light flint)、F (Flint)やSF (Schwerflint; 重フリントのこと)のように、鉛の含有量を増やした比重の高い硝材がこれに該当します。また別の硝材群に、SK (重クラウン)やSSK (最重クラウン)、LAK (ランタンクラウン)、LAF (ランタンフリント)、LASF (ランタン重フリント)があります。
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