回折格子に関するすべて
回折格子は、分光計やその他の分析機器、光通信、およびレーザーシステムをはじめとしたさまざまなアプリケーションに不可欠な光学部品です。回折格子は、入射光を回折により複数のビーム経路に分割し、異なる波長の光を異なる方向に伝播する微細かつ周期的な溝構造 (格子構造) を備えています。この構造によって、回折格子の機能は分散プリズムのそれと同様になりますが、プリズムの場合は回折ではなく、波長に依存した屈折の作用により波長を分離します (Figure 1)。回折と屈折の違いについては、当社のアプリケーションノート「Optics 101: Level 1 Theoretical Foundations」をご覧ください。
Figure 1: 分散プリズムは屈折によって波長を分離するが (上)、回折格子はその表面構造から生じる回折で波長を分離する (下)。
回折格子に入射した光は、以下の公式に従って回折されます:
この時、整数値のmは回折 (または分光) 次数、λは光の波長、dは格子上の溝間隔、αは光の入射角、βは格子から出た光の回折角になります。異なる回折波面の増加的干渉は波長の整数倍で起こるため、「m」が式1に現れることになります。mは回折次数を定義し、m=1の時の回折角を「1次 (1st order)」回折光、m=2の時の回折角を「2次 (2nd order)」回折光と見なします (Figure 2)。M=0の場合、回折格子が反射型であれば光は回折格子で正反射され、透過型であれば回折格子をそのまま透過します。この光を「0次 (0 order)」回折光とみなします。分散プリズムとは逆に、波長が短くなるほど正反射光または同透過光に近くなり、この場合は0次になります。異なる次数の間に、一部の交差領域が存在します。すべての角度は、回折格子の法線 (回折格子に垂直) から測定されます。
Figure 2: 一部の光は「0次」の回折として回折格子から正反射され、その他の入射光は波長に依存して1次の角度で回折される。入射光のごく一部は、より大きな2次や3次回折光として、より大きな角度で分離される。
回折格子の溝パターン、または溝の間隔 (d) によって、回折される次数別の角度が決まります。一部のケースでは、部品全体の回折レベルを入射位置によって変化させるために、溝の間隔を回折格子全体で意図的に変化させて設計している場合があります。一方、回折格子の溝の断面はその形状を表すもので、回折格子で回折される光の量と、回折格子で正反射もしくは透過する光の量を決定付けます。回折効率特性のグラフは、各波長で回折される光の割合を特定するのに用いられます。回折効率は偏光状態によっても変わるため、回折効率特性のグラフにはs偏光とp偏光別の曲線が通常紹介されています。回折格子を反射型にしたり、効率を上げたりするため、多くの場合は金属膜コーティングや誘電体膜コーティングが施されています。
回折格子を選択する際の注意点は?
回折格子を選択する際、波長範囲、ブレーズ波長 (回折スペクトルで最も効率の高い波長)、およびブレーズ角度を指定することが重要です。ブレーズ角度は、ブレーズ波長の1次回折角度を表します。この角度で、式1のαとβを等しくして、入射光が来た方向とまったく同じ方向に回折光を戻します。この状態をリトロー配置とも呼ばれます。システムではこの角度に近づくほど効率が最大になります。
通常は溝の密度 (周波数) がスペック化されており、溝間隔 (d) はこの逆数になります。光学系の重要な特性はその分散レベルになりますが、これは回折格子の特性とその使用方法に依存します。システムの他の詳細情報がわからない限り、回折格子の回転量がどの程度の波長分離に対応するかの仕様を詳細に示すことはできません。回折格子の分解能も規定できる可能性はありますが、これはシステムのスペクトル分解能に関連します。ただし、この分解能は、回折格子とシステムの入射側および出射側スリットの両方に依存します。回折格子の分解能 (R) は、スペクトル次数 (m) と照明下での溝の本数 (N) に依存します:
多くの場合、照明下には非常に多くの溝があり、回折格子ではなく、入射側スリットと出射側スリットがシステム分解能を制限する要因になります。回折効率曲線は、アプリケーションに使用されるすべての波長の回折レベルを検証するのにも有益です。
回折格子は、入射光の円錐または光ビーム以上の大きさが少なくとも必要になり、そうしない場合はエッジからの光が損失になります。そのため、システム周辺で迷光が発生して誤った信号を生成するのを防ぐためにも、回折格子は常にアンダーフィルの状態にする必要があります。
回折格子の種類
反射型と透過型回折格子
回折格子は、反射型と透過型の2種類の回折格子のに大別されます。Figure 1と2は、微細な溝をもつ、実質的にミラーである反射型回折格子を表しています。すべての回折次数は、回折格子から異なる角度で反射されます。透過型回折格子は、微細な溝をもったレンズのようなもので、すべて回折次数が回折格子を透過しますが、式1に従う角度でオフセットされます。反射型回折格子は反射型グレーティング、透過型回折格子は透過型グレーティングとも呼ばれます。
ブレーズドとホログラフィー回折格子
反射型と透過型回折格子は、その溝の形状を製作する方法の違いによって、さらにブレーズドとホログラフィー型に分類することができます。ブレーズド回折格子の溝は機械的に刻線され、対するホログラフィー回折格子の溝は光学的手法により製作されます。ホログラフィー回折格子では、フォトレジストと呼ばれる感光材料を基板上に塗布し、フォトレジストと相互作用する光干渉パターンで露光されます。その後、化学物質で残りのフォトレジストが除去され、回折格子パターンが形成されます。ブレーズド回折格子がFigure 1に示したような鋸波状の溝を通常持つのに対し、ホログラフィー回折格子は、通常は正弦波状の溝になります (Figure 3とFigure 4)。
Figure 3: ブレーズド回折格子の溝の形状は通常は鋸波状になる。
Figure 4: ホログラフィー回折格子の溝の形状は通常は正弦波状になる。
エシェル回折格子
エシェル回折格子の特徴は、他の回折格子に比べて溝の間隔が広い/溝の密度が低いことで、通常は約10倍、場合によって最大100倍まで違うことがあります。高い入射角度 (α) でエシェル回折格子を照明すると、分散、分解能、および効率が高くなり、偏光依存性が低くなります。高感度の天文機器や原子分解能が求められるシステムなど、高い分解能が必要になる場合は、この回折格子が理想的です。
平面と凹面回折格子
上記のすべての回折格子のタイプは、その全体的な形状から、平面回折格子と凹面回折格子にも分類することができます。平面回折格子は、平坦かつより一般的です。溝が直線状かつ等間隔に施されている場合、回折格子は平面型で、入射光がコリメートされているなら、すべての回折光がコリメートされます。システムの焦点特性が波長に依存しないため、多くのアプリケーションにメリットがあります。凹面回折格子に比べて、平面回折格子はシステムの複雑性も通常減らします。凹面回折格子は湾曲しているので、光を収束あるいは発散します。これはシステムに必要な光学部品の点数を減らすのに役立ちますが、システムの焦点特性が波長に依存するようになります。
回折格子のアプリケーション
回折格子はさまざまなアプリケーションに用いられますが、一般的なシステムとして次のものがあります:
モノクロメーター
モノクロメーターは、凹面または平面回折格子を凹面鏡とともに使用し、入射光から狭い波長帯域のみを取り出します。このデバイスの一つに白色光が入射すると、所望する狭い出力帯域以外のすべての波長はフィルタリングでカットされます。Figure 5は、モノクロメーターが回折格子を回転させることで、異なる波長が出射側スリット (Exit Slit) を通過し、他のすべての波長が遮断される様子を表しています。
Figure 5: 平面回折格子のモノクロメーター (上) も凹面回折格子のモノクロメーター (下) も、回折格子を回転させて、出射側スリット (Exit Slit) で回折次数をスキャンし、デバイスから出射する波長を正確に決定付ける。
スペクトログラフ
スペクトログラフは、モノクロメーターのように広帯域光源から波長を分離しますが、可動パーツはありません。その代わりに、分離したすべての波長を検出器アレイ (Detector or Array Detector) 上に同時にあつめます (Figure 6)。各波長が異なる画素に入射するため、デバイスが広帯域光源に存在する各波長の量を決定付けることを可能にします。スペクトログラフは、検出器全体で異なる波長をスキャンする必要がないため、時間を節約でき、スペクトルの迅速な分析が必要な場合によく用いられます。
Figure 6: 平面回折格子のスペクトログラフ (上) も凹面回折格子のスペクトログラフ (下) も、可動しない回折格子を用いて入射波長を検出器アレイ上の異なる画素に分離する。
レーザーのチューニング
回折格子を使用してレーザーのスペクトル出力を調整したり、出力波長帯域を狭くしたりする方法がいくつかあります。回折格子は、レーザー出力が所定の回折次数のみになるように回転させたり、回折格子を固定し、ミラーを回転させて出力波長バンドをフィルタリングしたり、またレーザー内のミラーを回折格子に置き換えることで出力波長バンドを狭くすることができます (Figure 7)。
Figure 7: 上の3種の構成は、回折格子をそれぞれ使用してレーザーの出力波長をチューニングしたり、出力波長領域を狭めたりする方法を表す。
レーザーパルスの圧縮、伸長、および増幅
超短パルスレーザーからのパルスなど、パルス持続時間が短いレーザーパルスは、ピークパワーが高く、繊細な光学コーティングや部品に損傷を与えてしまう可能性があります。これを回避するために、一対の回折格子を用いてパルスを引き伸ばし、パルス持続時間を伸ばしてピークパワーを低減することがあります。伸ばされたパルスはその後に光増幅器を通過し、光学部品に損傷を与えることなくそのパワーを高めることができます。増幅器を通過後、逆向きに配置した別の一対の回折格子でパルス持続時間を圧縮でき、結果としてその標的上で短く、高出力のパルスを届けます (Figure 8)。
パルスレーザーシステム内に回折格子を使用することで、パルス持続時間を伸ばしてシステム内のレーザー誘起損傷を防いだり、同時間を短縮して標的上で高出力パルスを生成することができる。
エドモンド・オプティクスの回折格子
エドモンド・オプティクスは、上記で紹介した全ての範囲のオプションをカバーする広範の回折格子を取り揃えます。
ブレーズド反射型回折格子
- ホログラフィー回折格子と比べて設計波長で優れた効率
ホログラフィー反射型回折格子
- 迷光を低減しながら高い回折効率を維持
エシェル反射型回折格子
- NUVからIRまで最も高い分解能と分散
凹面回折格子
- 集光兼分散素子として機能し、低収差を実現しながら分光計に必要な光学部品点数を削減
透過型回折格子
- 透過によって多色光をその構成波長に分離 (回折)
偏光グレーティング
- 偏光に依存して光を選択的に回折
その他の資料
- FAQ (よくある質問): 回折格子の公式は?
- FAQ (よくある質問): 反射型回折格子と透過型回折格子の違いは?
- FAQ (よくある質問): ホログラフィー回折格子とブレーズド回折格子の違いは?
- FAQ (よくある質問): 効率曲線は特定の波長で実際に観察される光の量とどのように関連している?
- FAQ (よくある質問): 回折格子のブレーズ角度とブレーズ波長は何を指して、両者はどのような関係がある?
- FAQ (よくある質問): 迷光とは何?どのようにシステムに影響する?
- FAQ (よくある質問): 回折格子の取り扱いと洗浄方法は?
- FAQ (よくある質問): 回折格子のローランド円とポリクロメーター構成の違いは?
もしくは 現地オフィス一覧をご覧ください
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