アクロマティックレンズをなぜ用いる?
アクロマティックレンズの種類
別名「アクロマートレンズ」とも呼ばれるアクロマティックレンズは、低屈折ガラスのクラウンガラスと、高屈折率ガラスのフリントガラスの2枚の光学素子を通常貼り合わせて作られます。1枚ガラスで構成された単レンズ、別名「シングレットレンズ」との比較では、2枚のガラス素子で構成されたダブレットデザインを用いることで設計の自由度が増し、性能の更なる最適化が可能になります。同一の直径と焦点距離を有するシングレットレンズと比較した場合、同レンズにはないメリットがアクロマティックレンズには数々存在します。
アクロマティックレンズには様々なタイプのものがある中、正の焦点距離を持ったポジティブタイプや負の焦点距離のネガティブタイプ、またトリプレットタイプや非球面タイプのアクロマティックレンズが最も注目すべきものになります。どのタイプも、2枚素子構成のダブレットレンズや3枚素子構成のトリプレットレンズにアレンジすることが可能ですが、素子の構成枚数自体が補正可能な光線 (色)の数を表しているわけではないことを理解しておくことは重要です。換言して、可視波長でデザインされたアクロマティックレンズというのは、それがダブレットデザインやトリプレットデザインであろうと、赤と青の2色のみを補正しています。各レンズタイプをFigures 1 — 4に紹介します。
Figure 1: ポジティブタイプ
Figure 2: ネガティブタイプ
Figure 3: トリプレットタイプ
Figure 4: 非球面タイプ
レンズ中の記号 | |
---|---|
Dia. | 直径 (Diameter) |
R | 曲率半径 (Radius of Curvature) |
ET | コバ厚 (Edge Thickness) |
EFL | (有効)焦点距離 (Effective Focal Length) |
CT | 中心厚 (Center Thickness) |
P | 主点 (Principle Point) |
BFL | バックフォーカス (Back Focal Length) |
非球面アクロマティックレンズの探求
非球面レンズとアクロマティックレンズの長所を融合した新しいテクノロジーがここにあります。非球面アクロマティックレンズは、卓越した球面収差補正と色収差補正を提供するこれら2種類のレンズを、コスト効率高く融合しました。画質に対して厳格な要求を求める今日の光学系のニーズに適合します。リレーレンズ光学系やコンデンサー光学系、高NAイメージングシステム、またビームエキスパンダー光学系への使用は、その一例と言えます。アクロマティックレンズと非球面アクロマティックレンズの性能をFigure 5とFigure 6に各々紹介します。Figure 5は#45-209 φ12.5 x f14のTECHSPEC® アクロマティックレンズのMTFと横軸光線収差特性、対するFigure 6は#49-658 φ12.5 x f14のTECHSPEC® 非球面アクロマティックレンズのMTFと横軸光線収差特性です。非球面アクロマティックのデザインの方が遥かに優れた解像力性能を得ることができるのがわかります。
Figure 5: アクロマティックレンズのMTFと横軸光線収差特性
Figure 6: 非球面アクロマティックレンズのMTFと横軸光線収差特性
非球面アクロマティックレンズは、従来のアクロマティックレンズの片側レンズ面に、光硬化型樹脂 (ポリマー)を接合して作られます。ポリマーは片側にしか使用しないため、製造自体も短時間で済みます。しかしながらその性能は、レンズ複数枚を用いて同等の光学的補正を行う組みレンズ光学系のそれと殆ど変わりません。反対にこのレンズのデメリットは、その製造方法により、ガラス製のレンズや組みレンズ製品よりは使用温度範囲が制限される点にあります (-20°C~80°C)。この使用温度範囲の制限は、ポリマー面側に反射防止膜 (ARコーティング)を蒸着することを阻みます。またこのレンズは、深紫外 (DUV)波長の光を透過しないため、この波長帯を用いたアプリケーションへの適用には見合いません。使用するポリマーは、キズに強いハード仕様ではありませんが、上述のメリットの高さから、これらのデメリットは十分に相殺するレンズと言えます。Figure 7に本レンズの製造工程の概要を紹介します。
ダイヤモンド切削加工した非球面モールドと既製のアクロマティックレンズ |
光硬化型樹脂のインジェクション |
アクロマティックレンズのプレスとUV硬化 |
非球面アクロマティックレンズの完成 |
Figure 7: 非球面アクロマティックレンズの製造
注目すべき性能
多色光イメージングの改善
アクロマティックレンズは、様々な色から構成される”白色光”イメージングにおいて、単レンズよりも遥かに優れた性能を得ることができます。「アクロマティック」という表現は、英語で文字通り「色を持たないレンズ」を表し、レンズを構成する2枚の素子が互いに協力して、光がガラス内部を透過する際に生じる色の分離を補正します。アクロマティックレンズの使用は、多色光照明や同イメージングにおいて結像性能を低下させる色収差を取り除くことのできる最も費用対効果の高い手段となります。この概念の図解をFigure 8に紹介しておきます。
Figure 8: 平凸レンズとアクロマティックレンズを各々用いた時の多色光イメージング
球面収差と軸上コマ収差の補正
球面収差やコマ収差による影響がなくなることは、レンズ開口を大きくした時の軸上結像性能を向上させます。単レンズとは異なり、アクロマティックレンズは、レンズ有効径を小さくしなくてもより小さなスポットサイズや優れた画像を形成することができます。Figure 9は、アクロマティックレンズが光軸上の縦色収差や球面収差をどのように補正するかを表し、また両凸レンズがプリズムと同様に白色光をどう分離してしまうのか - 青色の光線が赤色の光線よりもより近くに焦点を結んでしまう状態 - をFigure 11に図解しています。また、両凸レンズが補正不足な球面収差を生じてしまう様子をFigure 10に図解しています。球面収差 (Spherical Aberration; SA))は、レンズのFナンバーによって大きさが変わり、径が小さくなればより少なくなる方向になります。
Figure 9: アクロマティックレンズ |
Figure 10: 縦色収差 |
Figure 11: 球面収差 |
明るい画像と良好なエネルギースループット
レンズの有効径を大きくしてもアクロマティックレンズの軸上結像性能を損ねてしまうことがないため、光学系を絞る必要は一切ありません。有効径を絞るということは、例えばピンホールやアイリス絞りを用いてレンズに入射する光量を減らし、レンズの全体性能を改善させることを意味しています。有効径全体を利用することで、アクロマティックレンズや同レンズを用いたシステムは、単レンズを用いた同等のシステムに比べて、より明るくより効率的で、よりパワフルなものになります。
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