光学フィルター
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光学フィルター
光学フィルターは、画像の明るさの調整や像コントラストの改善、特定波長の透過や反射、また一つの画像を2つの独立した画像に特定分岐比で分割するといったことに用いられます。アプリケーションに合わせて正しい光学フィルターを選定する重要性を理解するため、鍵となる用語や原理と構造、そして今日調達可能なフィルターの種類を理解しましょう。
光学フィルターの専門用語
フィルターは、仕様の多くが他の光学部品と共通ですが、あなたのアプリケーションに最も適したフィルターが何であるかを効果的に理解し、製品選定する上で理解しなければならないフィルター固有の仕様があります。
中心波長 (CWL)
中心波長は、バンドパスフィルターの特性を定義するのに用いられ、フィルターが透過するスペクトルバンドの中間点を指します。干渉フィルター ( ソフトコート) の最大透過率は中心波長付近になる傾向があるのに対し、ハードコートタイプの光学フィルターは透過バンド全域にわたりほぼフラットな透過形状になる傾向があります。
バンド幅 (FWHM)
バンド幅は、フィルターを透過した入射光エネルギーのスペクトル領域を規定するのに用いられます。バンド幅は、半値全幅 (Full Width at Half Maximum: FWHM) とも呼ばれます (Figure 1 参照)。
Figure 1: 中心波長 (Center Wavelength) と半値全幅 (Full Width at Half Maximum) の図解
半値全幅 (Full Width-Half Maximum; FWHM)
半値全幅は、バンドパスフィルターが透過するスペクトルバンド幅を表します。フィルターが最大透過率の50% ( 半値) の値となる長波長側と短波長側間のバンド幅で定義されます。例として、フィルターの最大透過率が90% の場合、45% の透過率が得られる長波長側と短波長側間のバンド幅がそのフィルターの半値全幅となります。10nm 以下の半値全幅は狭帯域とみなされ、レーザークリーンナップや化学物質検出に良く用いられます。25-50nm の半値全幅はマシンビジョンアプリケーションに良く用いられ、50nm 以上の半値全幅は広帯域と見なされ、蛍光顕微鏡アプリケーションに代表的に用いられます。
ブロッキング領域
ブロッキング領域は、フィルターによって減衰される (透過を遮断される) 入射光エネルギーのスペクトル領域を規定するのに用いられます (Figure 2 参照)。遮断する透過率の度合いは、光学濃度のスペックを用いて通常規定されます。
Figure 2: ブロッキング領域の図解
スロープ
スロープは、ショートパスやロングパスフィルターといったエッジフィルターで定義される仕様で、透過阻止帯から透過帯への移行に要する波長のバンド幅を表します。スロープの大きさはカット波長の相対百分率で表され、様々な開始点と終了点を条件にしてその大きさを規定することができます。エドモンド・オプティクスでは、スロープの仕様を通常10% の透過点から80% の透過点に至るまでのバンド幅で規格化しています。例として、CWL=500nm のロングパスフィルターのスロープが1% で仕様化されている場合は、10% の透過率から80% の透過率に変わるまでに要するバンド幅は5nm (500nm の1% 分) になると考えられます。
光学濃度 (Optical Density; OD)
光学濃度は、フィルターによって透過を阻止あるいは遮断されるエネルギー量を表します。光学濃度の値が高いと透過率は低くなり、低い場合は透過率が高くなります。光学濃度が6.0 以上になると、極めて高い遮断性能が求められるラマン分光や蛍光顕微鏡に用いられます。3.0 - 4.0 の光学濃度は、レーザー分離やレーザークリーンナップ、マシンビジョン、化学物質検出に最適です。2.0、或いはそれ以下の光学濃度は、色の選別やスペクトル次数の分離に最適です。
Figure 3: 光学濃度の図解
ダイクロイックフィルター
ダイクロイックフィルターは、波長に応じて光を透過または反射するのに用いられるフィルターです。特定波長域の光を透過し、それ以外の波長域の光を反射または吸収します (Figure 4参照)。ダイクロイックフィルターは、ロングパスやショートパスのアプリケーションに共通して用いられます。
Figure 4: ダイクロイックフィルター用コーティングの光学特性
カットオン波長
カットオン波長は、ロングパスフィルターの性能を規定する際に用いられる用語で、50%の透過率に到達する波長を指します。カットオン波長 (λcut-on) をFigure 5に示します。
Figure 5: カットオン波長の図解
カットオフ波長
カットオフ波長は、ショートパスフィルターの性能を規定する際に用いられる用語で、50%の透過率に落ちる波長を指します。カットオフ波長 (λcut-off) をFigure 6に示します。
Figure 6: カットオフ波長の図解
光学フィルターの原理と構造
吸収タイプとダイクロイックタイプ
光学フィルターの多くは、2つのメインカテゴリーに大別することができます。吸収タイプとダイクロイックタイプです。両者の違いは、何をフィルタリングするかではなく、どのようにフィルタリングするかです。吸収タイプのフィルターの場合、光は使用するガラス基板の吸収特性を元に透過が遮断されます。言い換えれば、一部の波長の光を反射させて特定波長領域のみを透過させるというより、むしろ吸収によってそれを実現しています。不要な光がシステム内のノイズとして現れるのを嫌うアプリケーションの場合、吸収タイプのフィルターの使用が理想的です。得られる透過特性に入射角度依存性がさほどないことも吸収タイプのフィルターの別のメリットです。フィルターに対して光が広角に入射する場合でも、フィルターの透過特性や吸収特性は大きく変わりません。
一方、ダイクロイックフィルターは一部の波長の光を反射させて特定波長領域のみを透過させます。あるアプリケーションにおいては、この原理は望ましいものになります。なぜなら、光を波長に応じて2つの光路に分離することができるからです。これは、屈折率の異なる複数の薄膜材料を交互に積層し、光の干渉効果を利用することで実現されます。干渉フィルターの場合は、低屈折率材料から伝搬してきた光が高屈折率材料との境界面各面で反射と透過を繰り返し、特定入射角度で入射した一部の波長の光のみが建設的干渉によって薄膜材料全体を通過でき、他の波長の光は相殺的干渉によって同材料全体を通過することなく、逆に反射されます (Figure 7参照)。光の干渉に関する追加情報は、オプティクス 101: レベル1 - 基礎理論をご覧ください。
Figure 7: ガラス基板上に高屈折層と低屈折率層の薄膜材料を交互に積層した多層膜蒸着
吸収タイプのフィルターとは異なり、ダイクロイックタイプのフィルターは入射角度依存性があります。設計された入射角度条件で用いない場合は、元々規定された透過率や波長のスペックを満たすことはありません。経験則として、ダイクロイックフィルターへの入射角度が設計されたものから離れるほど、透過曲線全体がより短波長側 (より青色側の波長) にシフトし、近づくほど長波長側 (より赤色側の波長) にシフトしていきます。
ダイクロイックタイプのバンドパスフィルターの探求
広範な産業に用いられるバンドパスフィルターは、ダイクロイックとカラーガラス基板の両タイプがあります。ダイクロイックタイプのバンドパスフィルターは、2つの異なる製膜技術で製造されます。ソフトコーティングとスパッタリング式ハードコーティングです。どちらの製膜技術も、ガラス基板上に高屈折率層と低屈折率層の薄膜材料を積層していくことで独自の透過特性や反射特性が実現されます。アプリケーションによっては、100層以上の積層がガラス基板の片面側に蒸着されることもあります。
ソフトコーティングのフィルターとスパッタリング式ハードコーティングのフィルターでは、基板層の数が異なります。ソフトコーティングを採用したバンドパスフィルターは、複数枚のガラス基板上の各々に薄膜蒸着を行い、それらを最終的に一体化させています。Figure 7に図解したものが100枚以上あり、それを一体化させたものを想像してみてください。この構造にすると、全体の厚みが大きくなり、透過率が減少する結果となります。この透過率の減少は、入射光が同構造を伝搬する際に複数枚の基板層によって吸収や反射されてしまうことで引き起こされます。これに対し、スパッタリング式ハードコーティングを採用するフィルターは、一枚のガラス基板上にのみ薄膜材料を積層しています (Figure 8参照)。この構造は、フィルターの薄型化と高透過率に繋がります。蒸着技術に関する追加情報は、オプティカルコーティングへの手引きをご覧ください。また、アプリケーションに応じた正しいフィルターの選定をサポートするハードコーティングのメリットもご覧ください。
Figure 8: ソフトコーティングのフィルター (左) とスパッタリング式ハードコーティングのフィルター (右)
光学フィルターの種類
今日調達可能な様々な種類の光学フィルターの類似性や相違性の理解に役立てるよう、人気の最も高い10種類を見てみます。以下の選定ガイドは、製品概要とそのサンプル画像及び性能曲線を網羅し、比較が容易にできるようにしてあります。
光学フィルター選定ガイド | |
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サンプル画像 | 光学フィルターの種類 – サンプル性能曲線 |
バンドパスフィルター [性能曲線を見る] バンドパスフィルターは、透過波長帯域が狭帯域のもの (<2 ~ 10nm) と広帯域のもの (50 ~ 80nm) があります。入射角度依存性がとりわけ高く、光学系内に設置する際は特に注意を要します。所望する波長での透過率を最大化させたい場合は、スパッタリング式ハードコーティングを採用したフィルターを選定すべきです。 |
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ロングパスフィルター [性能曲線を見る] ロングパスフィルターは、規定したカットオン波長よりも長い波長全てを透過します。コールドミラーやカラーガラスフィルター、そしてThermoset ADCを用いたプラスティックフィルターもロングパスフィルターの仲間に属します。 |
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ショートパスフィルター [性能曲線を見る] ショートパスフィルターは、規定したカットオフ波長よりも短い波長全てを透過します。IRカットフィルターやホットミラー、そして熱吸収ガラスもショートパスフィルターの仲間に属します。 |
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熱吸収ガラス [性能曲線を見る] 熱吸収ガラスは、可視光を透過し、赤外放射を吸収します。吸収した光エネルギーは熱となり、ガラス周囲の空気中に拡散されます。過剰な熱を取り除くために、強制空冷ファンとの併用が一般に推奨されます。熱吸収ガラスは、ショートパスフィルターとしても機能します。 |
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コールドミラー [性能曲線を見る] コールドミラーは、ダイクロイックフィルターの特定タイプで、可視スペクトルでの高い反射率と赤外スペクトルでの高い透過率を得る目的でデザインされています。コールドミラーは、熱の堆積が損傷や負の効果を生み出す懸念のある全てのアプリケーションに用いられるようデザインされています。 |
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ホットミラー [性能曲線を見る] ホットミラーは、ダイクロイックフィルターの特定タイプで、赤外スペクトルでの高い反射率と可視スペクトルでの高い透過率を得る目的でデザインされています。ホットミラーは、プロジェクションシステムや照明システムに主として用いられます。 |
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ノッチフィルター [性能曲線を見る] ノッチフィルターは、設計波長域内の特定バンド幅の透過を遮断し、他の全ての波長は透過させるようデザインされています。ノッチフィルターは、光学システムから特定レーザー単波長もしくは特定狭帯域を透過遮断するのに用いられます。 |
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色ガラスフィルター (フィルターガラス) [性能曲線を見る] 色ガラスフィルターは、特定スペクトル領域にわたって本質的に独自の吸収や透過特性を持つ基板材料を元に製造されます。色ガラスフィルターは、ロングパスやバンドパスフィルターとして用いられることがよくあります。透過帯から透過遮断帯への移行は、コーティングタイプのフィルターと比べると一般に急峻ではありません。 |
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ダイクロイックフィルター [性能曲線を見る] ダイクロイックフィルターは、薄膜の蒸着によって設計した透過特性や反射特性を実現します。カラーフィルター (加色や減色) としてもよく利用されます。ダイクロイックフィルターには入射角度依存性がありますが、干渉フィルターほどの極端な依存性はありません。 |
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NDフィルター [性能曲線を見る] NDフィルター (中性濃度フィルター) は、紫外、可視、あるいは赤外といった特定スペクトル全域にわたり、透過率を均等に減らすためにデザインされています。NDフィルターは、2つのタイプに大別できます。吸収型と反射型です。吸収型は光の吸収によって透過率を制御するのに対し、反射型は光の反射によって透過率を制御します。反射型を使用する場合は、フィルターによって反射した戻り光が光学系に負の影響を与えないよう特別な注意を要します。NDフィルターは、カメラや光ディテクターのブルーミングや過剰露光を防ぐのによく用いられます。 |
アプリケーション実例
例1: カラーマッチイメージング
白黒カメラは、色自体を識別することはできません。しかしながら、カラーフィルターを加えることで、様々な色が混ざった被写体の撮像時にコントラストを改善することができます。コントラスト改善のヒントとして、被写体と同じ色をしたカラーフィルターを加えると画像を明るくすることができ、被写体と正反対の色のフィルターを加えると画像を暗くすることができます。2つの赤色の錠剤と2つの緑色の錠剤を白黒カメラで撮像する例で考えてみましょう。カラーフィルターを用いて撮像した様々な錠剤の画像をFigures 9a - 9dに示します。フィルターを何も用いない画像 (Figure 9b) では、白黒カメラは赤と緑の色を区別することができません。工場の生産現場でこれらの錠剤を検査するのは実質不可能でしょう。赤色のフィルターを加えた画像 (Figure 9c) では、フィルターと反対の色 (即ち緑色) の錠剤はより暗く映ります。画像コントラストが変化したため、赤色の錠剤から容易に区別できるようになりました。また、緑色のフィルターを加えた画像 (Figure 9d) では、赤色の錠剤がより暗く映ります。
Figure 9a: コントラスト改善: 検査対象のサンプル
Figure 9b: コントラスト改善: フィルターを用いない場合
Figure 9c: コントラスト改善: 赤色フィルターを用いた場合
Figure 9d: コントラスト改善: 緑色フィルターを用いた場合
例2: ラマン分光
ラマン分光アプリケーションにおける結果は、次にあげた2~3種類のフィルターを用いることで劇的に改善させることができます。レーザーライン用のバンドパスと、ノッチまたはレーザーライン用のロングパスです。最良の結果を得るために、バンドパスにはバンド幅が1.2nm程度の非常に狭帯域なもので、かつOD 6.0のブロッキング性能のあるものを用います。レーザーライン用バンドパスフィルターをレーザー光源と被検サンプル間の光路中に配置します。これにより、外部周囲光の透過が完全に遮断され、レーザー光源の波長のみが光路中を通ります。レーザー光が被検サンプルに照射された後は、ラマン散乱によってレーザー光の波長とは異なる沢山の微弱な波長 (信号) が生じます。そのため、光強度の非常に高いレーザー光をこの時点で遮断させる必要があります。レーザー光の波長のみの透過遮断を行うノッチフィルターをここで用います。ラマン励起モードがレーザーの波長からとても近い場合は、レーザーライン用のロングパスフィルターをノッチフィルターの代わりに用いることで信号の検出を行います。ラマン分光の代表的な構成をFigure 10に示します。
Figure 10: ラマン分光の構成
光学フィルターは、上記に紹介したカラーマッチイメージングやラマン分光に限らず、実に幅広いアプリケーションに用いられます。オプティクスやイメージング、そしてフォトニクスのほぼ全てのエリアに用いられます。光学フィルターの原理と構造、専門用語、そして今日調達可能なフィルターの種類を理解しておくことは、アプリケーションに応じたベストなフィルターを選定するのに大いに役立ちます。
もしくは 現地オフィス一覧をご覧ください
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