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レーザービーム整形の概要

レーザービーム整形の概要

本ページはレーザーオプティクスリソースガイドセクション5.1, 5.2, 5.3, 5.4, 5.5, 5.6です

レーザービームの形状は、その放射強度分布と位相によって通常定義されます。後者は、伝搬距離に対するビームプロファイルの均一性を決定付けするのに不可欠になります。そのため、ビームシェイパーは、光ビームの放射強度と位相を再分配し、所望する伝搬距離にわたって所望のビームプロファイルが維持されるようにデザインされています。一般的な放射強度分布に、放射強度が光軸からラジアル方向の距離の長さに応じて減少していくガウシアン分布と、所定のエリアに対して放射強度が一定になるフラットトップビーム、別名トップハットビームがあります (Figure 1)。ガウシアンビームの詳細な説明は、当社のガウシアンビーム の伝播のアプリケーションノートを、またレーザーの放射強度分布の品質を定量化するための情報は、レーザー共振器モードのアプリケーションノートをご覧ください。


Figure 1: ガウシアンビームプロファイル (左) の場合、ガウシアン方程式に従って中心からの距離が増加するにつれて放射強度が減少する。フラットトップビームの場合 (右) は、放射強度は所定のエリアにわたって一定になる


アプリケーションによっては、レーザー光源が通常持つガウシアン強度分布とは異なるビームプロファイルの方が利点になることがあります。例えばフラットトッププロファイルは、ガウシアンビームよりも正確で予測可能な切断面を得ることが多いことから、ある種の材料加工システムといったアプリケーションでは有利に働きます (Figure 2)。しかしながら、ビーム整形オプティクスを導入すると、システムの複雑性やコスト負担が増します。


Figure 2: レーザーアブレーション用途では、ガウシアンプロファイルを持つビームは、フラットトッププロファイルのそれに比べると、必要なアブレーション閾値より余分に高いエネルギーを持つ広いビーム領域および同プロファイル内の外側の領域ではエネルギーが閾値よりも低くなることから、効率が悪くなる

ビーム整形は、光の特性を最も基本的なレベルで変更するもので、その効率は時間-帯域幅に関するハイゼンベルクの不確定性原理によって決定されます1

(1)$$ \Delta _x \Delta _{\nu} \geq \frac{1}{4 \pi } $$
(1)
$$ \Delta _x \Delta _{\nu} \geq \frac{1}{4 \pi } $$

xは位置、vは運動量を表します。不確定性原理は、ビームシェイパーの設計にいくつかの制限を加えます。例えば、位置が非常によく定義された設計では、空間周波数はあまり定義されなくなります。回折理論、すなわちフレネル積分におけるフーリエ変換の関係に不確定性原理を適用すると、特性パラメータ$ \beta $ が得られます:

(2)$$ \beta = C \frac{r_i r_o}{\lambda z} $$
(2)
$$ \beta = C \frac{r_i r_o}{\lambda z} $$

ここで、$ \small{r_o} $ は入力ビーム半値幅、$ \small{r_i} $ は出力ビーム半値幅、$ \small{C} $は定数、$ \small{\lambda} $は波長、$ \small{z} $は出力面までの距離になります。$ \small{\beta} $の値は、ビーム整形アプリケーションを設計または検討する際に非常に重要であり、大きな値はより良いビーム整形性能に対応します。例えば、$ \small{\beta} $<4の場合、ビームシェイパーは、基本的にどのようなレーザーアプリケーションに対しても許容できる結果にはなりませんし、4<$ \small{\beta} $<16の場合は低い性能が提供されることになります。したがって、最善の性能を得るには、$ \small{\beta} $>16になるような実験条件を導入される必要があります。この式は、より大きなビーム、より短い波長、より短いフォーカス距離でビームシェイパーを設計することがより簡単であることを端的に表しています。

屈折式ビーム整形

コストが重視視される低性能なシステムでは、ガウシアンビームをアパー チャーで物理的に切り捨て、フラットトッププロファイルを擬似的に形成することがあります。これは非効率的で、ガウシアンプロファイルの外側の領域にあるエネルギーを無駄にしてしまいますが、システムの複雑性とコストを最小化します。

より高い効率が求められる高性能なアプリケーションでは、屈折式か回折式のレーザービームシェイパーがよく採用されます。こうしたアッセンブリは、非球面レンズやフリーフォームレンズ、回折素子といったフィールドマッピング位相素子を通常利用して、レーザー光の強度や位相分布を再分配しています。Figure 3は、ガウシアンビームプロファイルを波面歪みとエネルギー保存則によってフラットトッププロファイルに変換する屈折フィールドマッパーのレイアウト例です2。入射ビームの振幅と位相は、ガリレオ型かケプラー型のレンズアッセンブリ内の両素子を通過後に変更されます。その結果、設計領域内で高効率 (>96%のスループット) かつ波長依存性のないビーム整形が可能になります。屈折式ビームシェイパーは、均一な放射強度分布と平坦な位相面を可能にします。


Figure 3: フィールドマッピングを用いた屈折式ビーム整形例2

しかしながら、フラットトップビームをレンズを通して一点に集光しても、レンズがビーム形状に影響を与えてしまうため、最終集光地点ではフラットトップになりません。フラットトップの集光スポットが求められる場合は、ガウシアンビームをコリメートされたエアリーディスクプロファイルに変換するフィールドマッパーに置き換えると、回折フリーレンズで集光後にフ ラットトップスポットを形成することができます (Figure 4)。


Figure 4: AdlOptica Focal-πShaper Q フラットトップビームシェイパーなどのビームシェイパーが入射ガウシアンビームプロファイルをエアリーディスクプロファイルに変換し、集光光学系を透過後のビームプロファイルがフラット トップになる様子

回折式ビーム整形

回折式のビームシェイパーは、屈折ではなく回折を利用してレーザービームを特定の放射強度分布に整形します。回折素子は、基板に特定のマイクロあるいはナノ構造を形成するエッチングプロセスを採用しています。一般に、素子の設計波長と機能は、高さとゾーン間隔にそれぞれ依存します。したがって、回折光学素子を設計波長で使用することは、性能エラーを回避するために不可欠になります。また、屈折式のビームシェイパーと比較すると、回折素子はアライメントや発散、そして名目作動距離の平面内でのビーム位置への依存性がより高くなります。一方、回折光学素子は、複数枚の屈折型レンズではなく、一枚の素子で通常構成されているため、スペースに制限のあるレーザーセットアップにはとても有利に働きます。

レーザービームインテグレーター

レーザービームインテグレーター、もしくはホモジナイザーは、ビームをアレイ状の小さなビーム、別名ビームレットに分割する複数のレンズレットで構成され、後段のレンズや他の集光素子を用いてターゲット面でのビームレットを重ね合わせます。コヒーレントなレーザー光とインコヒーレントな光源の両方に用いることができます。最終的な出力ビームプロファイルは、一般的にレンズレットアレイによって決定される回折パターンの合計になります。大抵のレーザビームインテグレーターは、入射ガウシアンビームから均一化されたフラットトッププロファイルを生成するのに用いられます。 ビームホモジナイザーは、通常はランダムな放射強度変動の影響を受け、その結果、ビームプロファイルは完全に平坦ではなくなります。イメージングインテグレーターや導波路などの非回折式ビームインテグレーターは、空間的にインコヒーレントの入射光にも適しています。回折式かイメージングビームインテグレーターの選定は、フレネルナンバーに依存します。経験則として、フレネルナンバーが10未満の場合、均一なフラットトッププロファイルを獲得するために、イメージングインテグレーターが必要になります3

  反射 回折 ビームインテグレーター
 整形原理  決定論的  決定論的  ランダム or 準ランダム
 ランダム変動  低  低  高
 アライメントに対する感度  低  低  高
 出射ビームの均一性  高  中-高  低
 コスト  高  中  低
 実装面積  大  小  小
Table 1: 代表的なビーム整形技術の比較

ベッセルビームを生成するアキシコン

これまで、回折効果が光学系の設計や性能に大きな役割を与える、フィールドマッピングやビームインテグレーションを用いた光の整形について述べてきました。回折とは、反射や屈折によって引き起こされない、光の直線的な伝搬からの逸れのことです。この回折効果により、レーザービームは伝搬するにつれて拡がっていきます。一方、ヘルムホルツ方程式の厳密かつ不変な解として定義されるベッセル関数によってプロファイルが述べられるビームは、回折を持たない、すなわち、伝搬していっても拡がっていくことはありません4 。こうしたビームは自己回復性もあり、障害物があっても任意の地点で再成形することができます。ただし、理想的なベッセルビームを発生させるには無限のエネルギー量が必要となるため、生成は不可能です。そこで、アキシコンなどの円錐面によって形成される平面波の干渉により発生する疑似的なベッセルビーム、即ち近似ベッセルビームを発生させることになります。

アキシコンは、被写界深度 (DOF) とも呼ばれる所定の領域で回折がほぼゼロの擬似的ベッセルビームを形成します。この領域後は、ビームはリング状のパターンで伝搬を続けます (Figure 5)。従来の屈折型アキシコンは、円錐レンズかプリズムのどちらかで考えられていました。光はそれらを透過し、次に円錐面で屈折します。超短パルスレーザーシステムなどのある種の状況では、円錐面で反射させる反射型アキシコンも採用されています。超短パルスレーザーは波長帯域が広いため、屈折型アキシコンで透過すると色分散が大きく出てしまいますが、反射型アキシコンであればそれを回避することができます (Figure 6)。擬似的ベッセルビームは、ホログラフィック法を用いて高い回折効率をもつものを生成することもできますが、回折変調された軸方向プロファイルに悩まされることがあります。


Figure 5: DOF内でのベッセルビーム領域と交差領域後に伝搬するリング状ビームを示す従来の屈折式アキシコンの図解

Figure 6: 従来のアキシコンと同様に、反射型アキシコンはDOF内でのベッセルビーム領域と、交差領域後にリング状ビームを形成するが、従来型とは異なり波長に依存しない

ベッセルビームは、その伝搬距離内での回折がほとんどなく、DOFが大きいため、レーザーを使った材料加工や角膜手術などのアプリケーションに最適にします。その均一なビーム径により、DOF内でシャープなエッジを持った綺麗なカットを作り出すことが可能です。

シリンダーレンズを用いたビームの真円化

レーザービーム整形の別のタイプに、楕円形や異形状のビーム形状を円形に変換するビームの真円化があります。コリメート光学系を持たないレーザーダイオードは、ダイオードの活性領域が長方形であることから、x軸とy軸での発散角度が異なり、ビーム形状は長方形になります (Figure 7)。真円形状は、最終的な集光スポットを対称形のコンパクトなものにするのに要求されます。


Figure 7: レーザーダイオードの形状は 2つの異なる発散角を持つ楕円形 ビームを発生させる

シリンダーレンズは、光を集束したり発散するのに曲面を用いているという点である種球面レンズと同じですが、一軸方向のみに光学的パワーがあります。シリンダーレンズは、それと直交する軸方向では光に影響を与えません。光を回転対称に一様に集束か発散させる球面レンズを用いてこれを行うことはできません。シリンダーレンズは、レーザー光のマニピュレーションや整形において重要な役割があり、レーザーのシート光形成や楕円ビームの真円化に用いられます。

シリンダーレンズの基準系は、パワー方向とノーパワー方向という直交する2つの方向で定義されます。1番目の方向は「パワー方向 (Power Direction)」と呼ばれ、レンズの曲がった方向に沿ってこの軸にのみ光学的パワーが存在します (Figure 8)。2番目の方向は、光学的パワーを持たない方向に沿った「ノーパワー方向 (Non-Power Direction)」 です。ノーパワー方向に沿ってシリンダーレンズの全長を延ばしても、レンズの光学的パワーに影響を与えません。シリンダーレンズは、矩形、正方形、円形、楕円形を始め、様々な形状を持たせることができます。


Figure 8: 矩形シリンダーレンズと円形シリンダーレンズのパワー方向と ノーパワー方向

レーザーダイオードは非対称に発散していくため、ダイオードから円形コリメートビームを作るのに球面光学系を用いることはできません。レンズは両軸に同時に作用し、元の非対称性を維持してしまいます。直交する一対のシリンダーレンズであれば、各軸を別々に処理することができます。

対称な出射ビームを得るには、2枚のシリンダーレンズの焦点距離の比をx軸とy軸方向のビーム拡散の比に合わせる必要があります。標準的なコリメーションと同様に、ダイオードを両方のレンズの焦点上に配置し、2枚のレンズを焦点距離の差分だけ離して配置します (Figure 9)。


Figure 9: シリンダーレンズを用いた楕円ビームの真円化

レーザーダイオードは非常に大きな発散を持つものがあり、コリメートするのが難しくなる場合があります。なぜなら、発散の大きさがシステムの許容長さとレンズに求めるサイズに直接的な影響を与えるからです。発散角とビームサイズ間の関係は、ガウシアンビームの伝播で解説しています。各素子の相対位置は、その焦点距離により概ね決まるため、レンズの焦点距離 $ \left( \small{f} \right) $ とコリメートする軸側のビーム拡がり角 $ \left( \small{\theta} \right) $ を用いて各レンズでの最大ビーム幅 $ \left( \small{d} \right) $ を計算することが可能になります。各レンズの有効径は、この最大ビーム幅よりも大きくしなければなりません。

(3)$$ d = 2 f \times \tan{\left( \frac{\theta}{2} \right)} $$
(3)
$$ d = 2 f \times \tan{\left( \frac{\theta}{2} \right)} $$

更なる情報は、シリンドリカルレンズを 使用する際の考察をご覧ください。

アナモルフィックプリズムペアを用いたビームの真円化

楕円形ビームの真円化には、アナモルフィックプリズムペアという別の光学部品も使用されます。アナモルフィックプリズムペアは、レーザービームを整形するために2個のプリズムで構成されます。楕円ビームを円形形状に変換するために用いられることが多いですが、別の様々なサイズの楕円ビームプロファイルを作るのにも使用できます。シリンダーレンズと同様に、整形の背後にある光学的原理は屈折です。光の一方向または一軸だけが曲げられ、他方の軸は一定に保たれます (Figure 10)。これで、元々のビームの異なる発散角を補償します。


Figure 10: 一軸方向に対してビームエキスパンダーとして機能するアナモルフィックプリズムペアは 楕円形ビームを真円化することができる

1個のプリズムは、ビーム半径の一軸方向に変化を与えますが、ビームの方向にも変化を与えてしまいます。元々の伝搬方向を維持しながらビームの楕円率を操作するには、一対のプリズムが必要になります。アナモルフィックプリズムペアは、元々の方向に対して平行性を保つ一方で、この方向に対して垂直な方向のビームを変位させます。しかしながら、アナモルフィックプリズムペアを使用するには、正確な角度合わせが必要になります。必須ではありませんが、片方のプリズムをp偏光の光の反射がゼロになるブリュースター角で配置すると便利です。こうすることでプリズムの他方の面が垂直入射になり、反射防止 (AR) コーティングがそこに付いていれば最大スループットが得られるためです。いずれにしても、正確なアライメントが要求されることから、アライメントが事前に行われたプリズムペアを購入するユーザーが多いようです。

ハイエンドなダイオードには、ビームを真円化するアナモルフィックプリズムペアがレーザーヘッド内に装備されていることが多くあります。しかしながら、低価格のダイオードの多くはそうではありません。プリズムペアの付いていないダイオードを購入し、アナモルフィックプリズムペアを外付けすれば、高価なダイオードよりもコストを抑えられることがよくあります。

シリンダーレンズは、マウントされたアナモルフィックプリズムペアよりも自由度が高いため、アライメントがより難しくなります。また、シリンダーレンズは傾くことがあるため、プリズムの方が独立して軸合わせを行うことができます。シリンダーレンズの焦点距離には細心の注意を払い、ダイオード出射から適切な距離を離してコリメート真円ビームを生成する必要があります。アナモルフィックプリズムペアのマウントバージョンは、よりユーザーフレンドリーです。固定倍率で事前アライメントされているため、シリンダーレンズを用いて行う時のように自身で位置決めや組み立てを行う必要がありません。プリズムをビーム経路内で単にスライドさせるだけなので、独自にアライメントしなければならないのは一軸だけになります。追加のアライメント作業が不要で、ユーザーの時間の節約と潜在的なフラストレーションを回避することができます。入射レーザービームの位置に対するアナモルフィックプリズムペアの物理的ポジションも、さほどセンシティブなものではありません。

とは言っても、シリンダーレンズの自由度の多さは、より多くの柔軟性を与えることから、研究用途やプロトタイピングには有効に働くことがあります。特にARコーティングが施されている場合は、アナモルフィックプリズムペアよりも高いスループットを得ることもできます。シリンダーレンズの材料内を通る光の距離は、アナモルフィックプリズムペアに比較して短くなり、ブリュースター角でプリズムを使用した場合は、p偏光の光は失われてしまいます。更なる情報は、下記に紹介したアプリケーションノート「アナモルフィックプリズムペア」をご覧ください。

  シリンダーレンズ アナモルフィックプリズムペア
ビーム変位  変位ずれなし  変位ずれあり
自由度
アライメント感度
スループット
コスト
実装面積
Table 2: ビームの真円化に対するシリンダーレンズとアナモルフィックプリズムペアの比較

 

参考文献:

  1. F. M. Dickey and S. C. Holswade, Laser Beam Shaping: Theory and Techniques, Marcel Dekker, New York (2000).
  2. Laskin, Alexander, and Vadim Laskin. "Refractive field mapping beam shaping optics: important features for a right choice." Proc. ICALEO. Vol. 2010. (2010).
  3. F.M. Dickey, S.C. Hoswade, D.L. Shealy, Laser Beam Shaping Applications, Taylor & Francis, ISBN 0-8247-5941 (2005).
  4. J. Durnin: J. Opt. Soc. Am. A 4 (1987) 651.
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