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在庫販売品オプティクスを用いてあなた仕様のビームエキスパンダーを構築する

在庫販売品オプティクスを用いてあなた仕様のビームエキスパンダーを構築する

Variable Beam Expanders

ビームエキスパンダーは、入射コリメートビームをより大きなサイズのコリメートビームに拡大出射する光学系です。干渉実験やリモートセンシング、レーザー材料加工やレーザースキャンニングといったアプリケーションに共通して用いられます。在庫販売品のビームエキスパンダーが各種販売されていますが、これらの標準規格品が場合によってはあなたのニーズに合致しない場合もあることでしょう。あなた仕様のビームエキスパンダーを設計することは、あなたの真のアプリケーション要求に合致したものを用意できるという柔軟性を提供します。この時、在庫販売品のオプティクスを用いれば、設計から試作までに要する時間を大幅に削減できます。加えて、在庫販売品のオプティクスの使用は、製品化した際の量産供給対応の際にもほぼ即座に対応できます。

デザイン要件

あなた仕様のビームエキスパンダーを構築する部品の選定を始める前に、まず考えなければならないデザイン要件の中に、システムコスト、機械的な制約、そしてシステム性能があります。デザインを実際に始める前に、デザイン要求の優先順位を決めておくことを推奨します。あなたのデザイン要求をリストアップする際、アプリケーションによっては上記に記した以上のことを大なり小なり考えていかなければならないかもしれません。

システムコストを検討する際、コストと性能はトレードオフの関係にあることを理解しておきましょう。未コート品のオプティクスや光学用マウントのコストは、数量や選択材料、そして精密性によって影響を受けます。N-BK7は、その使用波長域の広さや低コスト性の点から理想的な光学ガラス材料である一方、合成石英は熱膨張係数の低さや高レーザー耐力といった特性から、要求がより厳しいアプリケーションに用いられます。一台のビームエキスパンダーが様々な波長に対して機能していくようにするには、波長 (色) の違いによる影響も考慮に入れておく必要があります。例えば、N-SF11とN-BK7の2種類の光学ガラスを組み合わせることで、さほど広くない波長域にわたってアクロマティックなソリューションを構築することができます。一枚のレンズがあなた仕様のビームエキスパンダーに向けて使用する候補になり得るかを検討するのに、レンズに用いられた光学材料をまずは確認しておいてください。

ビームエキスパンダーは、時に設置空間の制限された場所で使用するため、直径や全長といった物理的寸法の制約を受けることがあります。出射ビーム径の大きなものが必要になるほど、全体寸法のより大きなビームエキスパンダーが必要になり、使用するオプティクスのサイズも大きくなり (よってコストが高くなり)、また鏡筒に用いるメタル部品の点数も増えることになります。

加えて、デザインによっては出射ビームの拡がりを調節するためのピント調整機構が必要になります。ねじ込み式鏡筒などの回転式ピント調整機構は、その低コスト性から人気の高い選択肢です。しかしながら、この機構だと内蔵されたレンズが光軸に沿って移動する際に回転してしまい、ピント調整時に出射ビーム位置がぶれる可能性があります。ヘリコイドバレルのような直進移動式機構のものであれば、内蔵したレンズが回転することなく光軸に沿って直進移動するため、このぶれを最小化することができます。但しこの機構の採用によって、システムコストは上昇します。

あなた仕様のビームエキスパンダーを設計する前に、システム性能条件も理解しておきましょう。最低でも、ビームエキスパンダーのデザインが単一波長のみで良いのか、或いはある波長域全体で機能するようにしたいのか、また入射ビーム径と許容最小透過率の条件だけはおさえておきましょう。対応波長域が広くなるほど、デザインがより難しくなり、複雑性とコストが増します。これに対し、入射ビーム開口が小さくなると、性能要件を維持するのが容易になっていきます。全体透過率は、適切な反射防止コーティングの選定に大きく影響を受けます。未コート品のレンズの採用はコスト低減につながりますが、その反面、全体透過率の低下にもつながります (加えて、ビームエキスパンダー光学系内に有害な二次反射を作り出す可能性もあります)。これに対し、MgF2 単層ARコーティングなどのシンプルなコーティングが付いたレンズの採用は、90%以上の全体透過率を確実にします。ビーム品質は、波面精度 (波面ディストーション) としてよく規定されます。PV値でλ/4以下の波面精度であれば、通常は回折限界と見なされます。

他のパラメータに影響を与えないようにしながら、一つのパラメータのみを調節することは難しいことです。例えば、波面の品質を改善する別のレンズの組み合わせを選定すると、システムコストが増加したり、システム全長に影響を与えたりする可能性があります。許容入射ビーム径を大きくすると、透過波面品質に指数関数的影響を与えてしまうため、大きな入射ビーム径を条件にすると、設計が相当難しくなることにも留意しておく必要があります。使用する各パーツの製造公差にも注意が必要です – 公差が厳しくなるほど、システムとしてのコストがより高くなります。

ビームエキスパンダーのデザイン: ケプラー式 vs. ガリレオ式

在庫販売品のレンズを用いてビームエキスパンダー光学系を設計すれば、リードタイムを大幅に短縮でき、かつ設計サイクルも大幅にスピードアップできます。Zemaxのレンズカタログを利用することで、在庫販売品のレンズを容易に選定でき、レンズ間の間隔もあなたのデザイン要件に合わせて最適化することができます。業界屈指の製品群を揃えるエドモンド・オプティクスの在庫販売品レンズを用いれば、ケプラー式やガリレオ式の光学系が容易に設計可能です。ケプラー式デザインは、光学系のシステム全長が長くなり、また光路のいずれかに集光点が存在するのに対し、ガリレオ式デザインは全長が短くなり、集光点は光路中に存在しないといった違いがあります。

ケプラー式ビームエキスパンダーは、設計上光路中に集光点が存在します。これは、ガリレオ式デザインに対してメリットにもデメリットにもなります。集光点 (面) の存在は、ハイパワーレーザー使用時には大きなデメリットです。集光によって周囲の空気がイオン化されることがあり、透過エネルギーを減少させたり、危険なエネルギーレベルを作り出す可能性があります。低出力レーザー使用時には、集光面が空間フィルター設置の際の最適位置となるため、簡単かつ効果的なレーザービームのクリーンナップを可能にします。これに対し、ガリレオ式デザインは、同じ倍率で比べた場合に、ケプラー式のそれよりも全長が一般に短くなります。

ガリレオ式ビームエキスパンダーのデザイン考察

ガリレオ式ビームエキスパンダーの拡大力または倍率 (Magnification Power) は、以下の公式によって算出されます。

(1)$$ \text{Magnification Power} = \frac {f_1}{f_2} $$
(2)$$ \text{Optical Track Length} = f_1 + f_2 $$

ここで、$ \small{f_1} $は正のレンズの焦点距離、$ \small{f_2} $は負のレンズの焦点距離です。在庫販売品のレンズを用いた設計作業は至ってシンプルです。正と負のレンズの焦点距離を必要な倍率になるように選定し (公式 (1))、かつ物理的にこれ以上長くはできないというシステム全長 (Optical track length) 条件があれば、そうならないような焦点距離の組み合わせを選定します (公式 (2))。なおこの2つの公式は理論式で、レンズの厚さの考慮やレンズ間隔の最適化を行った場合には、計算値から多少ずれる結果となります。

レンズの有効径も選定の際には考慮しておく必要があります。負のレンズは入射ビームに対応するだけの十分な大きさが必要で、対する正のレンズは拡大したビームがケラレることなく出射するだけの大きさがなければなりません。

例えば、3mmの入射ビームを許容する5X のシステムの場合、10mm径の正のレンズを出射側レンズに用いると、ビームがケラレます。出射ビームが15mmに拡大されるからです。在庫販売品のレンズを幅広く取り揃えた光学部品カタログがあれば、直径や焦点距離別に沢山のラインナップがあるため、大抵の倍率要件に対応することができます。

5Xのガリレオ式ビームエキスパンダーを設計する

システム全長75mm未満の5X ビームエキスパンダーをデザインする場合を考えてみましょう。2枚の単レンズを組み合わせたガリレオ式デザインが検討でき、在庫販売品レンズの中からだと、以下の組み合わせのいずれかが候補になります: -6mmと30mm, -9mmと45mm, -12mmと60mm, そして -15mmと75mm。なお、-25mmと125mmの組み合わせや-20mmと100mmの組み合わせは全長75mm未満のシステム要件を満たしません。-18mmと90mmの組み合わせはこの要件を満たすかもしれませんが、システムに用いる金属パーツや実際のレンズの厚さを考慮に入れると、全長がこれより更に長くなるため、この要件を超えてしまう可能性が高いからです。

単レンズ2枚で構成されたビームエキスパンダーのデザインの場合、経験則的にシステム全長が長くなることで透過波面の品質が向上します。言い換えれば、-20mmと100mmのレンズの組み合わせは、-6mmと30mmの同組み合わせよりもかなり良好な波面を持つと考えられます。また、片面が平面状になっているレンズ (平凸レンズや平凹レンズなど) を用いれば、両面とも曲面状のレンズを用いるよりも波面品質が向上します。片面が平面状のレンズを用いてガリレオ式デザインを構成する場合、レンズの平面側を入射ビーム側に向けた方のが、波面品質向上に繋がる傾向があります。球面収差が相殺されるからです。しかしながら、もしハイパワーレーザーを使用するのなら、レンズの平面側で生じる戻り反射によって、例えレンズに反射防止膜が施されてあったとしても、レーザーが損傷する結果を招く可能性があります。

Zemax を用いた最適化

5Xのビームエキスパンダー構築の一例として、6mm径で-12mmの焦点距離を持つ平凹レンズ (#45-008) と、25mm径で60mmの焦点距離を持つ平凸レンズ (#45-127) を選定しました。在庫販売品のレンズを使用しているため、変動要因は2枚のレンズ間の距離のみ、つまりZemaxでのsurface 3の距離のみになります。このZemaxレンズデータエディタをFigure 1に示します。Figure 2は、アフォーカルモードでのビームエキスパンダーのレンズレイアウトです。

Lens data editor
Figure 1: レンズデータエディタ
Beam expander layout
Figure 2: ビームエキスパンダーのレイアウト

Zemaxでのaperture値は、デザインを最適化させたい入射ビーム径に設定しておかなければなりません。本例では、3mmの入射ビーム径で最適化し、15mmの出射ビームとなるようにしました。これは設計上の入射ビーム径ですが、最大入射ビーム径自体は最初のレンズの有効径の大きさで制限されます。また入射ビームがガウシアン分布であると想定し、ビームの入射角度を0°にしてシステム設計を簡略化するため、ビームエキスパンダーをレーザー光源に直結させていると仮定しています。最後に、使用するレーザーがHe-Neレーザーで、発振波長が632.8nmであると仮定しています。

ビームエキスパンダーはアフォーカル光学系のため、Zemax レンズデータエディタの“afocal image space” にチェックを入れておきましょう。これにより、測定単位が距離ではなく、角度に変更されます。アフォーカルシステムは焦点距離を持たないので、入射光ビームの収束や発散が最終的に起こりません。ビームエキスパンダーやカメラ用ズームレンズは、アフォーカルシステムの代表例です。

ZemaxのメリットファンクションエディタをFigure 3に示します。メリットファンクションは、とてもシンプルなもので、全てのアフォーカルシステムのベースとして用いることができます。使用したオペランド (被演算子) の詳細は、以下の通りです。

Merit Function Editor
Figure 3: メリットファンクションエディタ
  • RAED は、対象面に対して垂直となる実際の光線角 (ray angle) を最適化します。今回、正のレンズの最終面後にダミー面を加えました。上記スクリーン中のsurface 7がそれに該当します。出射ビームをコリメートにしたいので、ダミー面に対して垂直な方向の光線角を極力少ない値にしなければなりません。仮にこの値が0であるなら、そのシステムは真のアフォーカルと言えます。
  • REAY は、特定面での実際の光線高さ (ray height) を規定します。メリットファンクションでのREAYをゼロウエイトにしてあります。これによって、システムの最初の面と最終面での実際の光線高さを計測します。これは、入射ビームと出射ビームのサイズを意味します。なおREAYは、直径の代わりに半径を表示します。
  • メリットファンクションのデフォルト設定は、RMS波面精度 (RMS wavefront error) に対して最適化するようにしています。

最適化した後は、そのシステムが回折限界かそれに近いものにならなければなりません。Figures 45にそのスポットサイズと波面を示します。もしそのシステムが考えていた通りのものになっていないなら、いくつかのファクタを確認しておく必要があります。光の波長が選定したガラス材料に対応しているか (例えば、N-BK7は266nmの光を透過しません)? 2枚のレンズ間の間隔が個々のレンズの焦点距離の和におおよそなっているか? ビーム径が選定した入射側レンズに対して大きすぎていないか? などです。これらの変更を試みながら最適化を再度行い、以下の示した結果と同様なものになるようにしていきましょう。

Spot Size
Figure 4: スポットサイズ
Wavefront 3D map
Figure 5: 波面 3Dマップ

今、5Xのビームエキスパンダーを発振波長 632.8nm、ビーム径 3mmのレーザー光に対して素早く設計することが可能であるのを実践しました。選定したオプティクスは、在庫販売品の中から見つけたので、発注すればシステムの試作もすぐに行えるでしょう。在庫販売品のオプティクスを用いてデザイン作業を迅速に行う場合、品揃え豊富なオプティクス製品を持つ光学部品サプライヤーから調達することが、開発を迅速に行う上でも不可欠と言えます。エドモンド・オプティクスの業界屈指の在庫販売品オプティクスの製品ラインナップは、当日出荷が可能な光学部品も豊富にあり、あなたの迅速な試作作業を支援します。試作完了後の量産移行時にも、在庫販売品のオプティクスが納期的に、そして数量的に継ぎ目なく対応することができます。

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