レーザー損傷閾値試験
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レーザー損傷試験は、本質的に破壊試験になります。試験対象のオプティクスは、あるレベルのレーザーフルエンスに晒され、一般的にはノマルスキータイプの微分干渉コントラスト (DIC) 顕微鏡法を用いて検査されます。その後フルエンスを増加させ、露光と検査の工程を繰り返します。この工程は、オプティクス上に損傷が観察されるまで続きます。これ自体は概念的に単純な工程ですが、実際にはいくつかのレベルの複雑性があります。
ISO 21254によれば、被検オプティクス内で検出可能な変化はどれも「損傷」と見なされます。全ての試験で同じ損傷検出スキームが用いられているわけではなく、検査員毎に異なる信号対雑音の閾値を選定している可能性もあるため、損傷の評価方法次第で異なるLDT値が生み出される可能性があります。またISOが「損傷」と定義する欠陥が必ずしも性能劣化を意味しているわけではないことも認識しておくことが重要です。なぜなら、それはアプリケーションに依存するからです。
LDT試験は、シングルショット試験かマルチショット試験のいずれかで規定されます。「1 - on - 1テスト」としても知られるシングルショット試験は、一つの光学部品内の最低10か所の異なる場所に異なるレーザーフルエンスを用いてレーザー放射をシングルショットします。当該フルエンスでショットした場所の全体数に対する損傷した場所の数が、その特定フルエンスでの損傷確率となります。損傷確率がフルエンスの関数としてプロットされ、損傷確率が0%を維持する最大フルエンスがLDT値となります (Figure 1)。
Figure 1: シングルショット試験のサンプルデータ
「S - on - 1テスト」としても知られるマルチショット試験は、シングルショット試験とは異なり、同一箇所に一連のレーザーショット、即ちパルスショットを実施します。試験箇所当たりの一般的なショット数 (S) は、10~1000回です。マルチショット試験は、オプティクスの現実世界の性能のより近い予測が行え、またLDT試験員が「infant mortality realm」と呼ばれる現象を回避することを可能にします1。試験箇所当たり1~10ショットの場合、その試験結果は決定的なものとは言えず、高次の統計的変動が依然含まれます。これが、infant mortality realm と知られる試験箇所当たりのショット数領域です。Sが10よりも高くなれば、試験結果はより決定的なものとなり、予測性がより高まります。したがって、試験箇所当たりのショット数が100程度あれば、オプティクスの長期性能を予測する上で十分な情報が集められたことになります。しかしながら、試験箇所当たりのショット数が増えると、LDT試験自体に時間がかかり、試験費用がより高額になります。
損傷検出方法
試験結果は、損傷を評価するために用いられる検出方法次第で大きく異なるものになるかもしれません。しかしながら、どの方法を用いるかに関する業界内コンセンサスは現時点ではありません。顕微鏡法は、損傷を識別するのに最も一般的に用いられていますが、それ以外にも散乱光診断、プラズマスパークモニタリング、トポグラフィ解析を始めとする検出方法があります。
微分干渉コントラスト顕微鏡法
ノマルスキー型微分干渉コントラスト (DIC) 顕微鏡法は、ISO 21254に準じたレーザー損傷検出に最も一般的に用いられている顕微鏡法です。DIC顕微鏡法は、光の干渉を利用して透明サンプルの画像コントラストを強調し、他の方法では識別困難な欠陥の観察を可能にします2。試験の前後で撮られたオプティクスの画像から、人の判断または画像処理技法を用いて損傷が識別されます。人の判断が用いられる場合、検査員の主観による損傷識別となるため、試験結果が大きく変わることがあるのに対し、画像処理アルゴリズムを用いれば、ヒューマンエラーなしで損傷が検出されます。しかしながら、画像処理の場合であっても、口径食や不均一照明、あるいはミスアライメントによって、誤検出を生み出すことがあります。DIC顕微鏡法は、損傷の有無を確認するのに加え、欠陥の寸法も調べることができます。
散乱光診断
ISO 21254に定義されているもう別の一般的な検出法に散乱光診断があります。この方法は、ショット箇所からの散乱する光を用いてレーザー誘起損傷の存在や特性を判断するものです2。散乱光診断では、ビームプローブ (He-Neレーザーがよく用いられる) でショット箇所を照明し、オプティクス上に損傷がある時はそこからの散乱光信号差がバックグラウンドノイズよりかなり大きくなります (Figure 2)。プローブビーム自体は検出器に到達する前に遮断されるため、ショット箇所からの散乱光のみを検出できます。
Figure 2: レーザー誘起損傷が生じた直後の散乱信号の劇的変化
散乱光診断に用いられる標準的構成では、検出器の立体角が大きくなるほど、感度のより高い測定になります (Figure 3)。この方法の欠点の一つに、それがバックグラウンドノイズに大きく依存している点があります。この依存性は、複数回の測定実施と結果の平均化、検出器のゲインの増加、あるいはバックグラウンドノイズのフィルタリング処理によって克服することができます。
Figure 3: LDT試験に向けた散乱光診断の典型的な構成
プラズマスパークモニタリング
プラズマスパークモニタリングは、レーザー損傷を検出するのに用いられる別の方法です。レーザー誘起損傷は、非共振的な光学的破壊 (プラズマス パークと呼ばれる) から光学面上にプラズマ生成という結果をもたらし、損傷箇所周辺にプラズマに起因した熱傷を引き起こします。プラズマスパークあるいはその熱傷を識別することは、オプティクスへの損傷の明確な識別となります2。プラズマによる熱傷は、広い面に比較的均等に及ぶため、顕微鏡法や散乱光診断法を通してこれを識別することは困難です。しかしながら、プラズマスパーク自体は、集光レンズを用いてプラズマスパークからの光を検出器上に結ばせることで、LDT試験中に検出することができます (Figure 4)。損傷を検出するには、試験レーザーからの散乱光をフィルタリングして取り除き、検出器の応答時間を一般的に約100nsで最大ピークに達するプラズマスパークの持続時間よりも短く設定する必要があります。
Figure 4: LDT試験に向けたプラズマスパークモニタリングの典型的な構成
トポグラフィ解析
レーザー損傷のトポグラフィ解析にはレーザー誘起損傷箇所の高さ方向マップの生成が含まれるため、損傷のサイズや深さがわかるようになります2。この方法は、他の方法に比べるとより面倒で時間もかかるため、余り一般的には用いられません。しかしながら、この方法を用いると、損傷を引き起こす根本的メカニズムを理解する上での貴重な情報が手に入ります。トポグラフィ解析は、光学顕微鏡法、原子間力顕微鏡 (AFM) 法、走査電子顕微鏡 (SEM) 法、ステッププロファイラーや白色干渉法 (WLI) を始めとするいくつかの異なる技法を用いて実施されます。
レーザー誘起損傷のタイプに合わせて、その検出に適した技法があります。ステッププロファイラーとAFMは、浅い損傷箇所 (直径が約200µm以下で深さ1ナノメートル程度) を正確に測定するのに理想的です。2つの技法とも、機械的なプローブを用いてサンプルを走査し、プローブの偏位に基づく高さ方向マップを生成します。AFMシステムは、1ナノメートルの数分の一オーダーの分解能を達成することができ、可視光の光学的な回折限界の1000倍以上小さくなります。
SEMは、多層コーティング蒸着後に残されたディグを始め、アスペクト比 (幅と深さの比) が1程度のより深い損傷箇所の測定では、ステッププロファイラーやAFMよもり効果的です。SEMは、電子の集束ビームを用いてサンプル表面を走査して画像を形成し、光子のそれよりも遥かに深く浸透させることができます3。ステッププロファイ ラーやAFMは、深い損傷箇所の測定には適しません。その急勾配によって、接触式プローブが欠陥下部に達して正確な測定を行うことを困難にさせるからです。
バルク材もしくはピンポイント構造内に浸透した極めて深い損傷箇所の測定は遥かに困難です。なぜなら、伝統的なトポグラフィ分析技法は、オプティクスの表面を調べられるだけだからです。こうした損傷箇所を測定するには、バルク材料に劈開 (クリービング) やエッチング処理を施し、前述の技法のいずれか一つを用いて様々な深度で断面測定を行う必要があります。測定した数々の断面図は、完全な3Dトポグラフィマップ内で合成することができます。
LDT試験結果の解釈
あるオプティクスに規定されたLDT値は、損傷する確率がゼロであるレーザーフルエンスを決定するため、試験データを線形外挿して決められます。しかしながら、これは真に線形ではないデータを線形近似していることになります。この値だけで必要なすべての情報が得られている訳ではなく、このLDT値以下でも損傷は起こり得ます。ワイブル分布やブール分布は、LDTデータに対して遥かに正確な近似を可能にする連続確率分布です (Figure 5)。
Figure 5: 赤い縦線で示されるLDT値と2つのパラメータで最適近似された ウェイビル分布を持つ実際のLDT試験データ。LDT値未満であっても損傷する可能性がまだ残っていることを示している
Figure 5において、フルエンスがおおよそ5J/cm2の場合、これが規定されたLDT値未満であっても損傷確率はゼロではありません。損傷確率に示される縦線のエラーバーは試験箇所の数によって引き出され、フルエンスの横線のエラーバーは試験レーザーのショット毎の変動によって引き出されます。この世にパーフェクトなレーザーは存在しないため、かならずある程度のホットスポット、もしくは強度の変動があります。そのため、レーザーの使用条件よりも高いLDTをもつオプティクスを選定することで、安全係数を加えておく必要があります。業界慣行では一般に2もしくは3の安全係数が用いられますが、必要とされる安全係数はアプリケーションやレーザーのタイプに大きく依存するため、全ての状況に対して万能的に機能する安全係数というのは存在しません。しかしながら、レーザー誘起損傷が欠陥を招く場合は、異なる安全係数で損傷確率を評価できる統計学モデルが存在します (LIDTにおけるビーム径の重要性をご覧ください)。
Developing Internal LIDT Testing Capabilities
Edmund Optics developed a robust LIDT testbed for internal testing of laser optics. Learn about the difficulties of developing such a system and Edmund's initial results in our SPIE conference proceedings below.
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参考文献
- Johnson, Lawrence A. Laser Diode Burn-In and Reliability Testing. ILX Lightwave, 2006.
- Ristau, Detlev. Laser-Induced Damage in Optical Materials. CRC Press, 2016.
- Kanaya, K. “Penetration and Energy-Loss Theory of Electrons in Solid Targets.” J. Phys. D: Appl. Phys. 5, 43, 1972.
その他の資料
- レーザーコンポーネントにおけるレーザー誘起損傷閾値 (LIDT) の理解と規定
- Laser Damage Threshold Scaling Calculator
- LDTスペックの不確実性
- LDTスペックの種類
- ガラス内のバルクレーザー損傷
- LDTにおけるビーム径の重要性
- 超短パルスレーザーのLDT
- Why Laser Damage Testing is Critical for UV Laser Applications Application Note
- A Guide to (Not Over) Specifying Losses in Laser Optics Application Note
- 動画:エドモンド・オプティクスの計測:製造の主要な要素としての測定
- レーザーオプティクスに対する測量
- レーザーシステムの10のパラメーター
- レーザーオプティクスラボ 動画シリーズ
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