MTF曲線とレンズ性能
本ページはイメージングリソースガイドのセクション2.6です
Figure 1は、Sony IMX250センサー (画素サイズ3.45µmの2/3型センサーフォーマット) に使われたf=12mmレンズのMTF曲線の一例です。センサーフォーマットは、センサーに解説します。この曲線は、0$ \small{\tfrac{\text{本}}{\text{mm}}} ) $から150$ \small{\tfrac{\text{本}}{\text{mm}}} ) $までの空間周波数におけるレンズのコントラスト性能を表わします (センサーの限界解像度/ナイキスト周波数は、その画素サイズから145$ \small{\tfrac{\text{本}}{\text{mm}}} ) $と計算されます)。ちなみにこのレンズは、F2.8で0.05Xの倍率で設定されています。よって実視野の大きさは、センサーの水平方向の寸法に光学倍率の逆数である20倍を掛けた約170mmになります。この実視野/光学倍率は、本セクションの全ての例に用いられることになります。シミュレーション上の光源には白色を使用しています。
Figure 1: Sony IMX250センサーに使われたf=12mmレンズのMTF曲線
この曲線には様々な情報が含まれています。最初に気付くのは、回折限界曲線が黒色で示されていることです。黒色の曲線は、理論上可能な最大コントラストを表わし、150$ \small{\tfrac{\text{本}}{\text{mm}}} ) $の空間周波数でほぼ70%のコントラストが達成可能であることを示しています。このレンズにどのように手を加えても、この性能より高くはできません (Fナンバーと波長を変えない場合)。黒線以外の3色の曲線 (青、緑、赤) は、センサー上の所定の地点におけるレンズの性能を表わします (各色に対応しているフィールドポジションの解説は変調伝達関数 (MTF)をご覧ください)。低い空間周波数と高い空間周波数ではコントラスト性能が同じになることはなく、センサー 上の各地点においても同じ性能にはなりません。よって、実視野全体で一定のコントラスト性能を得ることはできません。
レンズのデザインと設定による性能比較
例 1: 同一の焦点距離とFナンバーで2つレンズデザインを比較
Figure 2は、同じ焦点距離 (12mm) を持つ2つの異なるレンズを同一の実視野サイズ、センサー、Fナンバー (F2.8) で使用した際の比較です。この2つのレンズは、同じサイズのシステムを作り出しますが、性能は大分異なります。コントラスト30%上に記した水色の水平線を指標にすると、Figure 2aでは実視野内のどの地点においても少なくとも30%のコントラストが達成できていて、センサー本来の性能を全体的に活用できていることがわかります。対するFigure 2bでは、視野のほぼ全てが30%より下のコントラストになり、センサー面積のわずかな部分しか良好な画質が得られないことになります。なお両方のグラフにある橙色の四角形は、Figure 2bの性能の低い方のレンズのコントラストが70%時の空間周波数を示しています。同じ大きさの四角形をFigure 2a上に配置すると、2つのレンズ間には低い空間周波数でさえかなり大きな性能の違いがあるのが見て取れます。2つのレンズ間の違いは、コスト上の制約から来る設計上の制約や製造上のバラツキから生まれます。Figure 2aのレンズは、かなり複雑なデザインを採用し、製造公差もより厳しくして作られています。Figure 2aのレンズは、空間周波数が低いアプリケーションや比較的短い作動距離で大きな実視野を求める解像力要求の厳しいアプリケーションのどちらにも適します。対するFigure 2bのレンズは、より多くの画素数を用いて、画像処理アルゴリズムの厳守を高めたり、低価格を求める場合に最良に機能します。どちらのレンズも、アプリケーションに応じた適切な選択となるシチュエーションが存在します。レンズがナイキスト限界解像度に達していないからといって、そのセンサーでの使用を排除するわけではありません。
Figure 2: 同一の焦点距離、Fナンバー、センサー、システムパラメータを用いた2つのレンズデザイン (aとb) のMTF曲線
例 2: 焦点距離が異なる2つの高解像力レンズデザインを同一Fナンバーで比較
Figure 3は、12mmと16mmの焦点距離を各々持つ2つの高解像力レンズを、同一の実視野サイズとFナンバーに設定した時の比較です。Figure 3bのナイキスト周波数でのコントラスト性能に目を向けると (水色の線)、Figure 3aと比較した時に明確な性能の向上が見て取れます。コントラストの絶対量的な差は10~12%程度ですが、約30%だったコントラスト値が42%に変わっていることを考えると、相対量的な差としては33%近くなります。また本例では、別の大きさの橙色の四角形 (Figure 3aにおいてコントラストが70%時の空間周波数) を記しました。このレベルでの両グラフの性能の差は、前例ほど極端な違いではありません。両レンズ間のトレードオフは、Figure 3bのレンズはその作動距離を33%程伸ばさなくてはならないというデメリットがある反面、性能はその分向上していることです。これは、良質なイメージングを得るための11のベスト・プラクティスのセクションに概説した一般的ガイドラインにも紹介しています。
Figure 3: 焦点距離が異なる2つの高解像力レンズデザインを同一のFナンバーとシステムパラメータで設定
例3: 同じ焦点距離 (f=35mm) のレンズデザインを異なるFナンバーで比較
Figure 4は、f=35mmレンズを白色照明で使用し、FナンバーをF4 (グラフa)とF2 (グラフb)に設定した時のMTF曲線です。黄色の線は、Figure 4aでのナイキスト周波数における回折限界の水準を両グラフ上に記し、対する青色の線は、Figure 4aのレンズをF4で設定している時のナイキスト周波数において、実際に最も低いコントラストの水準を記しています。Figure 4bでの理論的性能限界曲線は遥かに高いところに位置していますが、実際の性能は遥かに低いことがわかります。これは、Fナンバーを高くすると (レンズの絞りを絞ると)、理論的性能限界曲線はかなり下がってしまうものの、収差による影響を低減でき、レンズ性能を大幅に向上することができることを示す好例と言えます。但し、Fナンバーを高くすることによって、レンズの透過光量が少なくなってしまうというトレードオフも存在します。
Figure 4: 同一の35mmレンズを同じ作動距離で設定し、Fナンバーだけ違う値 (F4 (a)とF2(b))に設定
例4: 作動距離を変更した時のMTF特性上の変化
Figure 5は、f=35mmレンズをF2で設定し、レンズの作動距離を200mm (a)と450mm (b)に各々した時のMTF曲線です。性能上の大きな違いが見て取れ、レンズは作動距離を変えることで収差量を調整できることがわかります。ピントの再調整を含め作動距離を変えていった時、レンズ設計上の推奨作動距離範囲から外れたところで使用すると、性能の変動や低下に繋がっていきます。この現象は、特に低Fナンバー設定時によく現れます。
Figure 5: F2設定の35mmレンズを異なる作動距離で使用した時のMTF曲線
波長による性能上の影響
光の波長が変わると、媒質 (ガラスや水、空気など)内に入射する際に異なる角度で屈折します。例えば太陽の光をプリズムに入射させた時に虹を形成するのもこの現象によるもので、波長が短くなるとより大きく屈折する光の性質によるものです。この現象は、物体のディテールを解像して情報を得ようとするイメージングシステムにおいて問題となります。この問題を回避するために、イメージングやマシンビジョンシステムは、単波長もしくは狭帯域スペクトルを発光する単色光照明を主として使用しています。660nmの赤色LEDなどのこうした単色光照明は、イメージングシステムでの色収差を取り除きます。
色収差
色収差には、倍率色収差 (Figure 6)と軸上色収差 (Figure 7)の2つの形態に分けることができます。
倍率色収差 (Figure 6)は、画像の中央からコーナーに向かって目を移動していく時に視認することができます。画面中央部では、色 (波長)の異なる各ドットは同心上像を結びますが、画像コーナー部に向かって目を移動していくと、各色は分離し始めて虹のような像を作り出します。この色の分離現象の結果、物体上のドットはより大きなドットの形で像を結ぶことになり、コントラストを低下させることに繋がります。特にセンサーの画素サイズが小さくなっていくと、この像ボケが複数の画素をまたぐことになるため、この問題が特に顕著になります。倍率色収差に関する詳細は、収差の項で解説します。
Figure 6: 倍率色収差は各色が異なるフィールドポイントで像を結ぶ
軸上色収差 (Figure 7)は、全ての色 (波長)をレンズから等しい距離だけ離れた位置に像を結ぶ能力に関連します。波長が異なると、ベストフォーカス面が波長により異なってきます。波長に関係したこの焦点シフトは、カメラセンサーを配置する像面で異なるドットサイズのものが形成されてしまうことから、コントラストを低下させる要因となります。Figure 7の像面 (Image Plane)上では、赤の波長が一番小さなスポット径となり、次に緑色、残りの青色の波長は一番大きなスポット径となって現れます。一時に全ての色のピントが一致するわけではありません。軸上色収差に関する詳細は、収差の項で解説します。
Figure 7: 軸上色収差は各色が光軸上の異なる位置で像を結ぶ.
最善の波長を選択すること
単色光照明は、軸上色収差と倍率色収差の両方を取り除くことから、コントラスト改善に寄与します。単色光照明は、LED照明やレーザー光源、或いは光学フィルターを用いることで容易に実現できます。なお単色光照明でも、使用する波長が変わると、システムのMTF特性も変わる場合があります。回折限界は、完璧なレンズによって作り出すことのできる理論上最小のスポット径 (エアリーディスク径)を定義し、その大きさは波長 (λ)に依存します。公式 1を用いることで、波長 (λ)を変えた時やレンズのFナンバー (f/#)設定を変えた時のスポットサイズの変化をシミュレーションすることができます。
スポットサイズもより小さくできるため、センサーの画素サイズに関係なくセンサー本来の性能を有効に活用できるようになります。画素サイズの特に小さいセンサーにはとりわけ効果的です。次に、Fナンバーをより大きく設定して、被写界深度をより深くするといった対応が可能になります。例えば、赤色LEDを照明光に用いた場合、F2.8設定で4.51µmのスポットサイズを計算上得ることができますが、このスポットサイズは、青色LEDを照明に用いた時のF4設定と同等になります。もしどちらのオプションでもベストフォーカス時の性能が許容範囲であるなら、青色LEDでF4設定にすることでより深い被写界深度を得ることができ、被写界深度に対する厳しい要求に応えることができるかもしれません。
色 | 波長 | 開口 (Fナンバー) | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
F1.4 | F2.8 | F4 | F8 | F16 | ||
NIR (近赤外) | 880 | 3.01 | 6.01 | 8.59 | 17.18 | 34.36 |
赤 | 660 | 2.25 | 4.51 | 6.44 | 12.88 | 25.77 |
緑 | 520 | 1.78 | 3.55 | 5.08 | 10.15 | 20.30 |
青 | 470 | 1.61 | 3.21 | 4.59 | 9.17 | 18.35 |
紫 | 405 | 1.38 | 2.77 | 3.95 | 7.91 | 15.81 |
Table 1: 波長とFナンバーを変数にした時の理論的なエアリーディスクスポット径 (単位はµm)
例 5: 波長による改善
Figure 8にある2つの画像は、同じレンズとカメラを用い、同じ実視野サイズが得られるように設定して撮影されたものです。よって、物体側の空間解像力条件 (単位は$ \small{\tfrac{\text{本}}{\text{mm}}} $)は同じです。なお使用しているカメラセンサーの画素サイズは3.45µmです。Figure 8aに用いた照明は波長660nm (赤色)のもので、Figure 8bの照明は同470nm (青色)のものです。レンズには高解像力性能のものを使用していますが、光学的収差による画質への影響を低減するために、Fナンバーを高く設定しています。これにより、レンズ性能が回折限界に近づくようにしています。2つの画像の中央にある青い円は、Figure 8aにおける限界解像度のポイントを表わします。Figure 8bの画像は、解像可能なディテールが更に増えていることが、この円からおわかりいただけると思います (おおよそ50%高く解像しています)。また、低い空間周波数側 (黒線パターンのより太い方)においても、470nmの照明光を用いたFigure 8bの方がより高いコントラストを得ているのがわかります。
Figure 8: 同じレンズとセンサーを用いた時のスターターゲットの画像 (同一Fナンバー時): 照明光の波長だけを660nm (a)から470nm (b)に変えている
例 6: 白色光と単色光のMTF特性
Figure 9には、同じレンズを用いて同じ作動距離とFナンバー設定で使用しています。Figure 9aには白色光を照明に使用し、Figure 9bには波長470nm (青色)の単色光照明を使用しています。Figure 9aでは、ナイキスト限界時のコントラスト性能はどの曲線も50%以下になっています。これに対しFigure 9bでは、どの曲線もFigure 9aのそれより高いコントラストになっています。加えて、Figure 9bのセンサー中心での曲線 (青線)は、Figure 9aの回折限界曲線 (黒線)と同等かそれ以上になっています。この性能の改善には次の2つの理由があります。まず単色光を用いたことで、システム内の色収差を取り除いたため、とても小さなスポット径を形成することができたこと、次に波長470nmの照明光が、可視光イメージングにおいて用いられる波長の中でも短い波長である点です。回折限界やエアリーディスクに関するセクションで詳細を説明したように、照明光に用いる波長を短くすると高次元の解像が可能になります。
Figure 9: 同一レンズ (F2設定)を異なる波長の照明 (白色光 (a)と470nm (b))で使用した時のMTF曲線
波長に関する考察
照明に用いる光の波長を変更する際、理解しておくべき2~3の注意点があります。波長を短くして青色側の波長に重きを置くようになると、レンズ設計の視点から考えた場合に課題に直面するデザインが増えるようになります。使用する波長域の広さ/狭さに限らずです。レンズに用いられる硝材は、本質的に短波長側 (約425nm以下) で良好な性能を維持できない傾向があります。レンズ設計上はこの波長域を当然考慮していますが、対応策に限界があることも度々あるため、高コストな特殊材料を用いてレンズ系を組み立てるといったことがあります。Table 1の表においてベストな理論的性能は、波長 405nmの紫を照明に用いた場合になりますが、大抵のレンズデザインはこの波長で良好な性能を維持できません。レンズが短波長側で現実的に機能するかは、レンズの性能表を用いて評価することがとても重要になります。
例 7: 理論的限界
Figure 10にある2つのMTF曲線は、f=35mm レンズ (F2設定)を青 (470nm)と紫 (405nm)の照明光で各々用いた時の比較です。Figure 10aの回折限界曲線がFigure 10bのそれよりも低くなるのに対し、実際の性能曲線は、470nmの波長を用いた時の方が、どのフィールドポジションにおいても良好な性能を実現します。その理由は、Fナンバーと作動距離によって決まるレンズ設計上の対応能力の限界を超えて使用したためです (詳細は変調伝達関数 (MTF)のMTFを参照)。 性能に著しく影響を及ぼす波長の別の問題は、色の違いによる焦点シフトに関連したものです。照明に用いる波長域がアプリケーション上広くなってしまう場合、性能を高次に維持しようとするレンズの能力には限界があります。この現象に関する更なる詳細は、 収差の項で解説しています。
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