マシンビジョン フィルタリング技法
著者: Gregory Hollows, Nicholas James
フィルター技術の種類
本ページはイメージングリソースガイドのセクション8.1です
マシンビジョンで被検物体の画像を改善したり、調整したりするのに、多くの種類のフィルターが利用されます。様々なフィルターの種類の裏には異なる技術が使用されており、各々にメリットと限界があるのを理解しておくことが重要です。広範な種類のフィルター製品がある中で、大抵のフィルターは次の2つの主要タイプに分類することができます。カラーガラスフィルターとコートタイプ干渉フィルターです。
カラーガラスフィルター
特定スペクトルを選択的に吸収したり透過する成分をガラス材料内にドープして作られるカラーガラスフィルターは、マシンビジョンでは非常に一般的に用いられています。ドープ材料の選択は、どの波長を透過させるかによって変わります。製造工程は標準的な光学ガラス製造のそれとほぼ同じです。カラーガラスフィルターは、次にあげる2つの点でメリットがあります。一つは、干渉フィルターと比べた時に低コストで調達できること、そしてもっと重要なことは、広角レンズを使用した時やフィルターを斜めに傾けて使用した時でも、透過特性の波長シフトが起こらないという点です。しかしながら、カラーガラスフィルターの透過波長帯は一般に広帯域で、コートタイプ干渉フィルターと比べると透過帯から透過阻止帯への移行が急峻ではなく、また精度も高くありません。加えて、フィルターの透過効率レベルもコートタイプ干渉フィルターのそれほど高くありません。代表的なカラーガラスフィルターの透過曲線をFigure 1に紹介します。透過波長帯が広く、透過帯と透過阻止帯の境界の曲線スロープがなだらかなのが見て取れます。
Figure 1: カラーガラスフィルターの分光透過曲線
マシンビジョン用途において白黒カメラとカラーカメラの両方に利用される赤外 (IR)カットフィルターは、カラーガラスフィルターとコートタイプ干渉フィルター の両タイプが選択できます。マシンビジョン用カメラの多くに採用されるシリコンセンサーは、1µm程度までの波長に感度があるため、頭上にある蛍光灯や他の周囲にある光源から放射される赤外の光が同センサーに入射すると、得られる画像に不正確性が生じます。カラーカメラでは、IRの光はセンサー上で誤った色を作るため、全体的な色情報の再現性を落とします。こうした理由から、カラー撮像用カメラの多くには、センサー上にIRカットフィルターを標準装備しています。白黒カメラの場合は、IR光の存在が全体画像のコントラストを低下させますが、カラーカメラとは異なり、IRカットフィルターを通常装備していません。カラーガラスフィルターには他の種類もあります。例えば、デイライトブルーフィルターは、多色光源とカラーセンサーが用いられる時のカラーバランス調整用に用いられます。
コートタイプ干渉フィルター
コートタイプ干渉フィルターは、カラーガラスフィルターよりも立ち上がりと立ち下がり特性が一般に急峻で、より高い透過率とより深いブロッキング性能 (透過遮断特性)を有します。カラーガラスフィルターに加えて、コートタイプ干渉フィルターには、ハードコーティングを採用した蛍光用フィルターからダイクロイックフィルター、そして偏光フィルターまで、様々な種類が存在します。どのコートタイプ干渉フィルターも、適切な性能を確保するために、独自の製造工程を経て作られます。光学特性が波長に依存するコートタイプ干渉フィルターは、特定基板上に高屈折率と低屈折率の誘電体膜を交互に積層して蒸着することで作られます。基板の表面品質と均質性がフィルターの光学的品質のベースとなり、基板材料自体を透過しなくなる波長が透過波長限界になります。誘電体膜層は、透過波長限界域内で光の干渉を引き起こし、波を強め合ったり弱め合ったりすることで、所望のフィルターの分光特性を作り出します。またこれにより、カラーガラスフィルターに比べて透過帯から透過阻止帯への移行がより急峻になります。ハードコートフィルターには、バンドパスやロングパス、ショートパスやノッチフィルターといった数多くの種類があり、どのフィルターも特定のブロッキング領域と透過領域を有します。ロングパスフィルターは、短波長側の透過を阻止し、長波長側を透過するようデザインされています。
ショートパスフィルターはその逆で、短波長側を透過し、長波長側の透過を阻止する特性です。バンドパスフィルターは、ある波長帯を透過し、その波長帯よりも短波長側と長波長側の両方の透過を阻止します。バンドパスフィルターと逆の特性を持つのがノッチフィルターで、ある波長帯の透過を阻止し、その波長帯よりも短波長側と長波長側の両方を透過します。フィルタータイプ別の透過曲線形状をFigure 2に紹介します。
Figure 2: ロングパスとショートパスフィルターの透過曲線形状 (a)とバンドパスとノッチフィルターの同形状 (b)
ブロッキング性能が深く (光学濃度が高く)、曲線スロープが急峻な (透過帯から透過阻止帯への移行がシャープな)フィルターは、正確な光の制御が極めて重要となるアプリケーションに用いられます。大抵のマシンビジョン用途では、このレベルの正確性は要求されません。一般的に、光学濃度 (Optical Density (OD))が4以上の特性を有するフィルターは、マシンビジョン用途においては過剰要求となり、不要な費用投資になります。ハードコートフィルターは、透過領域や透過遮断領域といった特性を正確に実現するために光の干渉効果を利用するため、マシンビジョン用途で用いる際には難易度を伴います。どの干渉フィルターも、特定の入射角度でデザインされています。特に記載のない限り、通常0°の入射角で設計されています。マシンビジョンに用いられる時、フィルターはイメージングレンズの対物側に通常取り付けられます。この場合、使用するレンズの画角 (AFOV) によって、フィルターは角度を持って入射してくる光も受け入れることになります。とりわけ短い焦点距離を有するレンズ、即ちAFOVの大きいレンズを使用した場合、フィルターを透過した光は、「ブルーシフト」として知られる不要な効果を生み出します。例えば、f=4.5mmレンズは、f=50mmレンズよりも画角が大きくなるため、より多くのブルーシフトがあります。コートタイプ干渉フィルターへの入射角度が大きくなると、フィルター層を通過する際の光路長が長くなるため、これを相殺する形でカットオン波長とカットオフ波長が短波長側にシフトする現象が起こります (Figure 3参照)。
Figure 3a: 光がフィルター膜内に入射した時の光路長の違いで何が変わるか。設計入射角通りに光が入れば、光の波同士が膜内で打ち消し合うため、膜内の透過を妨げる。これに対し、角度を持って入射した場合は、この波の打ち消し合いが効果的ではなくなり、フィルターの光学特性に変化を与えてしまう
Figure 3b: バンドパスフィルターに15° で入射させた時のブルーシフト例。透過中心波長が短波長側にシフトするだけでなく、スロープ形状のシャープさも低下させてしまう。破線で描いた透過曲線は、入射角度0°時の理想的特性を示す
この結果、フィルターの透過領域が画像上のフィールドポイント毎に異なるという状況を作り出し、視野の縁に向かうほどブルーシフトの量が大きくなります。コートタイプ干渉フィルターは、それでも多くの場合においてカラーガラスフィルターよりも良好なフィルタリング制御を行いますが、広角レンズにコートタイプ干渉フィルターを用いる場合は、思わぬ落とし穴になることがあります。
マシンビジョンフィルタリングを使ったアプリケーション
本ページはイメージングリソースガイドのセクション8.2です
マシンビジョンシステムを設計する際、検査対象物内の観察したい細部のコントラストを高めることが重要です。コントラストに関する解説は、コントラストをご覧ください。フィルタリング技法は、像コントラストを高めるための簡便な方法で、周囲からの不要な照明の光の影響を取り除きます。フィルターを使ってコントラストを高める方法は沢山あり、アプリケーションに応じて使用するフィルターの種類が異なってきます。マシンビジョンに用いられる共通のフィルタータイプに、カラーガラス、干渉、中性濃度 (ND)、偏光があります。カラーガラスのバンドパスフィルターは、画質を劇的に改善する最もシンプルなフィルターの一つです。このフィルターは、ビジョンシステムで可視化する波長帯を狭めることで画質を改善でき、比較対象の干渉フィルターよりも安価に調達できることの多いフィルターです。カラーガラスフィルターは、色相環チャート (Figure 4)で反対側にある色の透過を遮断する際にベストに機能します。
Figure 4: 暖色系の色 (Warm Colors)は、色相環チャート上反対側に位置する寒色系の色 (Cool Colors)をフィルタリング (透過遮断)するのに用いられる
カラーフィルター
Figure 5に示したジェルカプセルを検査する例を考えてみましょう。写真の通り、赤色のカプセルが両端に2つと緑色のカプセルが中央に2つ、白色のバックライト下にあります。
Figure 5: 同じビジョンシステムを使って検査する4個の液体カプセル (カラー画像で紹介)
錠剤を色毎に分けて所定の場所に各々運ぶ識別アプリケーションです。白黒カメラを使ってこのカプセルの画像を撮ると (Figure 6)、緑と赤色のカプセル間のコントラスト差はわずか8.7%しか得られず、見分けるのに最低限必要な20%のコントラストを確保できていません。この例の場合、人がそのシステムの前を通り過ぎることで起こる周囲光のわずかな変動が、この時点でさえ低い8.7%のコントラスト差を更に減らしてしまう可能性があります。すると、システムは適切に動作する能力を完全に失います。この問題を解決する方法は幾つかあります。検査システム全体を完全に覆う、サイズ的に大きく、費用もかかる遮光システムの導入や、システムの照明方法全体の見直し、或いは光学フィルターを追加し、緑と赤色間のコントラストを高めるといった方法があります。本例では、最も簡便かつ費用対効果の高いソリューションとして、緑色のカラーガラスフィルターを利用して2色のカプセル間のコントラストを改善してみます。Figure 6の結果の通り、コントラストはそれまでの8.7%から86.5%に、ほぼ10倍改善されました。
Figure 6: 白黒カメラで撮像したカプセル: 8.7%のコントラストを達成 (a), 白黒カメラと緑のカラーガラスフィルターを使って撮像したカプセル: 86.5%のコントラストを達成 (b)
NDフィルター
NDフィルターは、カメラの露光時間やレンズのFナンバー設定を変えずに画像の明るさを抑えたい場合に威力を発揮します。NDフィルターは、吸収型と反射型の主要タイプに大別できますが、レンズを透過してセンサー上に到達する光の量を波長に依存することなく均等に減らすという基本的役割はどちらも同じです。露光時間設定に関わらず撮像素子が過剰露光してしまう溶接などのアプリケーションには、NDフィルターが光量を必要レベルにまで落とすのに用いられます。この時、レンズのFナンバーを変更する必要がありません (Fナンバーを変更すると、システムの解像力性能が変化します)。アポダイジングフィルターは特殊なNDフィルターの一つで、基板の中心から周辺に向かって光学濃度が連続的に変化しています (基板中心部の光学濃度が最も高く、周辺部の濃度が最も低い)。このフィルターは、物体からの強烈な反射によって画像中央部に発生するホットスポットを取り除くのに役立ちます。
偏光フィルター
偏光フィルターは、マシンビジョン用途によく用いられる別のタイプのフィルターで、特に反射率の高い物体の撮像に効果的です。偏光フィルターを適切に用いるためには、光源とレンズの両方に偏光フィルターを装着しなければなりません。この時の2枚の偏光フィルターは、各々偏光子、検光子と呼ばれます。Figure 7は、反射物体を撮像する時に偏光フィルターの有無が画像にどのような違いを生むかの例を示しています。
Figure 7: 偏光フィルターを使わない画像 (a)には高いグレアが現れ、偏光フィルターを使った画像 (b)にはグレアが現れない
Figure 7aに明視野照明を用いて検査した時のCCD撮像素子の画像、対するFigure 7bには、同じ照明を用い、かつ光源側に偏光子とレンズ側に検光子を各々取り付けた時のCCD撮像素子の画像です。Figure 7bに示した通り、2枚の偏光フィルターを追加したシステムは、強い反射がレンズ側に取り付けたフィルターによって吸収されたため、優れた画質を提供しています。不要なグレアを最大限消光するには、光源側に取り付けた偏光子とレンズ側に取り付けた検光子の偏光軸が互いに垂直の位置関係になるよう向きを調節しなければなりません。適切に調節されていない場合、強い反射光の一部がレンズを透過してしまい、グレアとなって画像に現れることになります。画像のコントラストを操作するのにフィルターが使えることを理解しておくことは、イメージングシステムの精度を向上させるためにも極めて重要です。例えそれが単純なカラーフィルタリングや偏光フィルタリングであっても、固有の問題を解決するために各々のフィルターが存在しています。どのフィルターがどういったアプリケーションに用いられるべきなのかを理解していくのが重要です。
もしくは 現地オフィス一覧をご覧ください
クイック見積りツール
商品コードを入力して開始しましょう
Copyright 2023, エドモンド・オプティクス・ジャパン株式会社
[東京オフィス] 〒113-0021 東京都文京区本駒込2-29-24 パシフィックスクエア千石 4F
[秋田工場] 〒012-0801 秋田県湯沢市岩崎字壇ノ上3番地