波長による性能上の影響
著者: Gregory Hollows, Nicholas James
本ページはイメージングリソースガイドのセクション3.3です
光の波長が変わると、媒質 (ガラスや水、空気など)内に入射する際に異なる角度で屈折します。例えば太陽の光をプリズムに入射させた時に虹を形成するのもこの現象によるもので、波長が短くなるとより大きく屈折する光の性質によるものです。この現象は、物体のディテールを解像して情報を得ようとするイメージングシステムにおいて問題となります。この問題を回避するために、イメージングやマシンビジョンシステムは、単波長もしくは狭帯域スペクトルを発光する単色光照明を主として使用しています。660nmの赤色LEDなどのこうした単色光照明は、イメージングシステムでの色収差を取り除きます。
色収差
Figure 1: 倍率色収差
色収差には、倍率色収差 (Figure 1)と軸上色収差 (Figure 2)の2つの形態に分けることができます。
倍率色収差 (Figure 1)は、画像の中央からコーナーに向かって目を移動していく時に視認することができます。画面中央部では、色 (波長)の異なる各ドットは同心上像を結びますが、画像コーナー部に向かって目を移動していくと、各色は分離し始めて虹のような像を作り出します。この色の分離現象の結果、物体上のドットはより大きなドットの形で像を結ぶことになり、コントラストを低下させることに繋がります。特にセンサーの画素サイズが小さくなっていくと、この像ボケが複数の画素をまたぐことになるため、この問題が特に顕著になります。倍率色収差に関する詳細は収差がマシンビジョン用レンズに与える影響の収差の項で解説します。
軸上色収差 (Figure 2)は、全ての色 (波長)をレンズから等しい距離だけ離れた位置に像を結ぶ能力に関連します。波長が異なると、ベストフォーカス面が波長により異なってきます。波長に関係したこの焦点シフトは、カメラセンサーを配置する像面で異なるドットサイズのものが形成されてしまうことから、コントラストを低下させる要因となります。Figure 2の像面 (Image Plane)上では、赤の波長が一番小さなスポット径となり、次に緑色、残りの青色の波長は一番大きなスポット径となって現れます。一時に全ての色のピントが一致するわけではありません。軸上色収差に関する詳細は、収差がマシンビジョン用レンズに与える影響の収差の項で解説します。
Figure 2: 軸上色収差
最善の波長を選択すること
単色光照明は、軸上色収差と倍率色収差の両方を取り除くことから、コントラスト改善に寄与します。単色光照明は、LED照明やレーザー光源、或いは光学フィルターを用いることで容易に実現できます。なお単色光照明でも、使用する波長が変わると、システムのMTF特性も変わる場合があります。回折限界は、完璧なレンズによって作り出すことのできる理論上最小のスポット径 (エアリーディスク径)を定義し、その大きさは波長 (λ)に依存します。エアリーディスクと回折限界に関する詳細は、解像力とコントラストに関する限界: エアリーディスクをご覧ください。公式 (1)を用いることで、波長 (λ)を変えた時やレンズのFナンバー (f/#)設定を変えた時のスポットサイズの変化をシミュレーションすることができます。
Table 1は、波長を紫 (405nm)から近赤外 (880nm)まで変えていった時のFナンバー別エアリーディスク径の計算値です。レンズ系はより短い波長を利用した時に、理論的な解像力や性能が良くなることをこのデータははっきりと示しています。これを理解しておくと幾重のメリットがあります。まず、波長が短くなると、スポットサイズもより小さくできるため、センサーの画素サイズに関係なくセンサー本来の性能を有効に活用できるようになります。画素サイズの特に小さいセンサーにはとりわけ効果的です。次に、Fナンバーをより大きく設定して、被写界深度をより深くするといった対応が可能になります。例えば、赤色LEDを照明光に用いた場合、F2.8設定で4.51μmのスポットサイズを計算上得ることができますが、このスポットサイズは、青色LEDを照明に用いた時のF4設定と同等になります。もしどちらのオプションでもベストフォーカス時の性能が許容範囲であるなら、青色LEDでF4設定にすることでより深い被写界深度を得ることができ、被写界深度に対する厳しい要求に応えることができるかもしれまん。本内容に関するより高度な詳細情報は、被写界深度と焦点深度にあるFナンバーと被写界深度の項をご覧ください。
Table 1: 波長とFナンバーを変数にした時の理論的なエアリーディスクスポット径 (単位はμm)
例1:波長による改善
Figure 3にある2つの画像は、同じレンズとカメラを用い、同じ実視野サイズが得られるように設定して撮影されたものです。よって、物体側の空間解像力条件 (単位は本/mm)は同じです。なお使用しているカメラセンサーの画素サイズは3.45μmです。Figure 3aに用いた照明は波長660nm (赤色)のもので、Figure 3bの照明は同470nm (青色)のものです。レンズには高解像力性能のものを使用していますが、光学的収差による画質への影響を低減するために、Fナンバーを高く設定しています。これにより、レンズ性能が回折限界に近づくようにしています。2つの画像の中央にある青い円は、Figure 3aにおける限界解像度のポイントを表わします。Figure 3bの画像は、解像可能なディテールが更に増えていることが、この円からおわかりいただけると思います (おおよそ50%高く解像しています)。また、低い空間周波数側 (黒線パターンのより太い方)においても、470nmの照明光を用いたFigure 3bの方がより高いコントラストを得ているのがわかります。
Figure 3: 同じレンズとセンサーを用いた時のスターターゲットの画像 (同一Fナンバー時): 照明光の波長だけを660nm (左図a)から470nm (右図b)に変えている
例2:白色光と単色光のMTF特性
Figure 4には、同じレンズを用いて同じ作動距離とFナンバー設定で使用しています。Figure 4aには白色光を照明に使用し、Figure 4bには波長470nm (青色)の単色光照明を使用しています。Figure 4aでは、ナイキスト限界時のコントラスト性能はどの曲線も50%以下になっています。これに対しFigure 4bでは、どの曲線もFigure 4aのそれより高いコントラストになっています。加えて、Figure 4bのセンサー中心での曲線 (青線)は、Figure 4aの回折限界曲線 (黒線)と同等かそれ以上になっています。この性能の改善には次の2つの理由があります。まず単色光を用いたことで、システム内の色収差を取り除いたため、とても小さなスポット径を形成することができたこと、次に波長470nmの照明光が、可視光イメージングにおいて用いられる波長の中でも短い波長である点です。回折限界やエアリーディスクに関するセクションで詳細を説明したように、照明光に用いる波長を短くすると高次元の解像が可能になります。
Figure 4: 同一レンズ (F2設定)を異なる波長の照明 (白色光 (上図a)と470nm (下図b))で使用した時のMTF曲線
波長に関する考察
照明に用いる光の波長を変更する際、理解しておくべき2~3の注意点があります。波長を短くして青色側の波長に重きを置くようになると、レンズ設計の視点から考えた場合に課題に直面するデザインが増えるようになります。使用する波長域の広さ/狭さに限らずです。レンズに用いられる硝材は、本質的に短波長側で良好な性能を維持できない傾向があります。レンズ設計上はこの波長域を当然考慮していますが、対応策に限界があることも度々あるため、高コストな特殊材料を用いてレンズ系を組み立てるといったことがあります。Table 1の表においてベストな理論的性能は、波長 405nmの紫を照明に用いた場合になりますが、大抵のレンズデザインはこの波長で良好な性能を維持できません。レンズが短波長側で現実的に機能するかは、レンズの性能表を用いて評価することがとても重要になります。
例3:理論的限界
Figure 5にある2つのMT F曲線は、f=35mm レンズ (F2設定)を青 (470nm)と紫 (405nm)の照明光で各々用いた時の比較です。Figure 5aの回折限界曲線がFigure 5bのそれよりも低くなるのに対し、実際の性能曲線は、470nmの波長を用いた時の方が、どのフィールドポジションにおいても良好な性能を実現します。その理由は、Fナンバーと作動距離によって決まるレンズ設計上の対応能力の限界を超えて使用したためです (詳細は変調伝達関数 (MTF)とMTF曲線を参照)。
性能に著しく影響を及ぼす波長の別の問題は、色の違いによる焦点シフトに関連したものです。照明に用いる波長域がアプリケーション上広くなってしまう場合、性能を高次に維持しようとするレンズの能力には限界があります。この現象に関する更なる詳細は、収差がマシンビジョン用レンズに与える影響の収差の項で解説しています。
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