球面収差補正プレートの詳細
光学収差の存在は、数学上の完全なモデルからの逸脱を意味します。物理や光学、或いは機械的な欠陥によって引き起こされるものではなく、むしろ光の波としての性質から、レンズ自体の形状やシステム内での光学素子の配置によって引き起こされる現象であることを理解する必要があります。光学収差は、いくつかの異なる方法で名付けられ、分類分けされます。説明の単純化のため、収差を次の2つのグループ: 色収差 (複数の光の波長を用いた時に生じる収差)と単色収差 (一つの光の波長だけで生じる収差) に分けて考えることにしましょう。収差に関する更なる情報は、色と単色の光学収差や光学収差の比較をご覧ください。
Figure 1: 球面収差の図解
単色の光学収差の中で最も共通したものの一つに球面収差があります。球面収差は、レンズに入射する高さ (レンズ中心からの)によって光軸上の異なる位置に焦点を結ぶ現象で、システム性能を低下させます (Figure 1参照)。どの球面光学素子を使っても球面収差は現れますが、球面収差補正プレートを用いてシステム内に存在する既知の量の球面収差を低減したり取り除いたりするのが革新的手法です。
球面収差補正プレートとは?
球面収差補正プレートは、既知の球面収差量を相殺し、補正する一枚光学素子です。既存のシステム内に簡単に挿入することができ、スポットサイズを小さくし、画質を劇的に改善します (Figures 2a – 2b参照)。球面収差補正プレートを使うことで、収差補正が行えることをその変化から確認することができます。既知の球面収差量を補正するこのプレートは、設計に費やす時間を節約し、システム全体の重量と製造コストの削減に貢献します。
球面収差補正プレートは、コリメート光となる空間で、瞳近傍で使われるためにデザインされています。また、レーザーシステムや点のような被写体を撮像するアプリケーションなど、小さい実視野を持つ光学系に用いられるためにデザインされています。この補正プレートは、補正に必要な球面収差量を作り出します。負の符号を持つプレートは、オーバー (補正過剰)な球面収差を生み出します。これに対して、正の符号を持つプレートは、アンダー (補正不足)な球面収差を生み出します。
球面収差補正プレートは、光学的にフラットな平面基板上に、粘弾性磁性流体研磨加工によってマイルドな非球面プロファイルを形成し、低い透過波面歪を作り出します。非球面形状は、伝統的に以下の表面プロファイル (サグ)で定義されます。
ここで、Zは面のサグ量 (光軸の向きに平行)、sは光軸からの半径、Cはレンズ曲率 (曲率半径の逆数)、kは円錐定数 (コーニック定数)、A4 , A6, A8 , …は4次, 6次, 8次, …の非球面係数になります。
しかしながら、球面収差補正プレートの場合は、光学的なパワー (曲率)は何もないため、C=0になります。そのため、2次非球面係数がある上記式の第一項はゼロになり、以下のようになります。
Figure 2a: 球面収差補正プレート未使用時の光学系のスポットダイアグラム
Figure 2b: 球面収差補正プレート使用時の光学系のスポットダイアグラム
球面収差補正プレートの使用メリット?
球面収差補正プレートは、光学設計者や生産財の最終使用者が球面収差を補正したり抑えるためのパラダイムシフトとなります。この製品は、収差補正を設計や試作段階中、或いは生産段階後に行える新たな次元の柔軟性を提供します。この補正プレートにより、システム全体の再設計やソフトウェアの導入、または補償光学導入による制御を行うことなく、使用者が既知の球面収差を能動的に補正することが可能になるため、時間や費用を節約することができます。
歴史的に見て、球面収差を補正するオプティクスは一般に高価で、取扱いも面倒でした。このオプティクスの中には、補償光学システムや液体レンズ、或いは粘弾性磁性流体研磨仕上げ加工して作られた完成素子をアッセンブリ内に用いたものを含みます。どのケースにおいても、球面収差を低減するプロセスには高額な費用と大変な時間を必要とするため、OEMアプリケーションには不向きでした。幸いにも、一枚素子の球面収差補正プレートは、最も入手しやすい補償光学システムよりも2桁以上安価な費用で導入することができます。
導入の仕方にも依存しますが、球面収差補正プレートは、システム性能を改善しながら光学系の使用素子枚数を減らすことが可能なため、システム重量や組み立てに要する時間や費用を削減することができます。一構成部品レベルのオプティクスとして見た場合、この補正プレートのアプリケーションや使用メリットは、最終使用者の創造性のみに制限されます。
球面収差補正プレートは、完全な収差補正に対する新たな考え方の先駆けとなるかもしれません。結果的に一枚の光学部品をシステムデザイン内に単純に導入することで、システム全体を再設計することなく、他の収差を解決できる可能性があります。この補正プレートは、収差補正がどのように行われていくかの変化を確認でき、非点収差やコマ収差、像面湾曲といった他の収差補正用プレートへの道を切り開きます。
球面収差補正プレートは革新的?
光学設計者は、何世紀もの間、システム内に存在する球面収差を補正しようと日々努力してきました。今後も、光学素子の限界を押し上げる新たなテクノロジーを用いて、この改善は引き続き行われていくことでしょう。加えて、光学設計者や光学メーカーは、球面収差を取り除く新種の素子だけでなく、収差全体を減らすことのできるデザインも模索し続けます。ダブレットレンズや非球面レンズの出現により、光学設計者の多くは、設計の初期段階でシステム内に存在している球面収差を補正することができます。しかしながら、生産財の最終使用者や研究所の研究者は、こういったエラーを簡単に補正できるシンプルで費用対効果の高いソリューションを持ち合わせていないことがよくあります。
現在の収差補正方法の一つに補償光学の使用があります。より具体的には、デフォーマブルミラーや液体レンズです。これらのテクノロジーの現状は、クローズループの補償光学システムを首尾よく導入するために、エレクトロオプティクスに関する深い知識やコンピュータプログラミングスキルを最終使用者に要求します。この要求は、システム性能を素早く簡潔に改善する上でとても高いハードルになります。球面収差補正プレートは、球面収差を補正する真にユニークでパッシブなソリューションです。
球面収差補正プレートの部品としての性質は、製品寿命を延ばし、全体的な有用性を高めます。この製品は、製品サイクルや使用サイクル内のどの時点においてもシステム内に実装することができます。パッシブ光学素子のため、ソフトウェアや電気的制御は一切要求されませんし、製品の寿命や有用性を制限しません。発散する光や収束する光がガラス内を透過する (ウインドウ内に入射する) 限り、光学設計者や生産財の最終使用者にとって球面収差は懸念事項となります。球面収差補正プレートのこうした特長は、同製品を数年後に光学業界での中心部品にしていくかもしれません。
現実世界のアプリケーション例
球面収差補正プレートを既存のアプリケーション内に導入するメリットを本当に理解するため、公式や図解、Zemaxシミュレーションを併せた2つの現実世界の例で考えてみましょう。
アプリケーション 1: ビーム径と波長を関数とした球面収差
球面収差補正プレートは、その有効径全体に光のコリメートビームが入射した時に、所定の球面収差を作り出します。しかしながら、有効径よりも小さなビーム径が入射した場合に生成される球面収差量も時に知る必要があります。入射ビーム径が有効径よりも小さい場合、次のような疑問が生じます - 「では、球面収差はどのくらいになる?」
コリメートビームの場合、補正プレートによって生成される波面エラーの全量、即ちW (λ,ρ)は、波長と入射ビーム径の両方の関数になり、以下の公式で表わされます。
ここで、W (λ,ρ)は球面収差によって生じる透過波面エラー (Wavefront Error; WFE)で、単位はλ (波長)になり、ρはプレートの有効径に対する入射ビーム径の比、そしてW040は個々のプレートの波面収差係数で、単位はλ (波長)になり、波長に依存します。
Figure 3: #66-749 φ12.5mm +0.25λ 球面収差補正プレートの入射ビーム径別球面収差量の関係
587.6nmの波長では、W040の値が個々の補正プレートで規定した波面エラーと同じになります。例えば、#66-749 φ12.5mm +0.25λ 球面収差補正プレートの場合、W040の値は587.6nmにおいて+0.25になり、有効径は11.25mmになります。上に述べた公式3は、補正プレートにコリメートビームを入射した時にのみ有効であり、収束や発散ビームが入射する場合は無効となることにご注意ください。Figure 3は、587.6nmの波長における#66-749 補正プレートの入射ビーム径別球面収差量の関係を表しています。
先に述べたように、球面収差補正プレートによって生成される球面収差量は、光源の波長にも影響を受けます。Figure 4は、#66-749 が球面収差をより短波長側で多く生成し、長波長側でより少なく生成することを表しています。これは、W040の符号に関係のない事実です (Figures 4–5参照)。要約すると、補正プレートによって得られる球面収差の大きさは、有効径が増えれば増えますし、波長が小さくなれば増えることになります。
Figure 4: #66-749 φ12.5mm +0.25λ 球面収差補正プレートの波長を関数にした時のW040
Figure 5: #66-750 φ12.5mm -0.25λ 球面収差補正プレートの波長を関数にした時のW040
アプリケーション 2: 正の焦点距離を持つ光学レンズの収差補正
正の焦点距離を持つ光学レンズは、常に正の値の球面収差が生じます。これは、その透過波面エラー (WFE)分布や光路差 (Optical Path Difference; OPD)のグラフからもわかります (Figure 6参照)。正の焦点距離のレンズが作り出す球面収差を補正するために、負の値を持つ球面収差補正プレートを用いてみます。
F8.89で機能する#32-891 φ25mm x 200mm FLの平凸レンズと#66-760 φ25mm -1.00λ 球面収差補正プレートを一緒に用いる例を考えてみます。Figure 6は、平凸レンズ単体でのWFE分布とOPDグラフです。これに対Figure 7は、補正プレートをレンズのコリメート側に配置した時のものです。プレート未使用時では、平凸レンズ単体で+0.9162λの球面収差を生じますが、プレートを使用すれば、透過WFEが+0.9162λ – 1λ ≈ -0.0836λとなり、λ/10以下にすることができます! レンズ自体のNAは小さいかもしれませんが、光路差的には球面収差を補正しようとするのに十分な大きさです。 .
Figure 6: #32-891 φ25mm x 200mm FL 平凸レンズのF8.89でのWFE (左図) と OPD (右図)
Figure 7: #32-891 φ25mm x 200mm FL 平凸レンズに#66-760 φ25mm -1.00λ 球面収差補正プレートを併用した時のF8.89でのWFE (左図) と OPD (右図)
Figure 8: #66-749 φ12.5mm +0.25λ 球面収差補正プレートのFナンバー別波面エラー (WFE)
球面収差補正プレートはコリメート空間内に設置するため、得られる透過WFEは、プレートの非球面の向きに依存しないことを理解するのは重要です。もしプレートをレンズの光が発散する空間内に配置すると、プレート配置によって加えられる球面収差量は、同じ板厚を持つ平行平面板によって生成される球面収差に、コリメート空間側に補正プレートを配置した時に生じる球面収差を加えた量に等しくなります。このコンセプトを更に理解するため、収束/発散する波面内にプレートを1枚加えた時に生成される球面収差量を考えてみましょう。
ここで、W (λ, ρ, t, n, f/#)は球面収差によって生じる透過波面エラー (Wavefront Error; WFE)で、単位はλ (波長)になり、ρはプレートの有効径に対する入射ビーム径の比、そしてW040は個々のプレートの波面収差係数で、単位はλ (波長)になり、波長に依存します。また tはプレートの板厚、nはプレートの波長λにおける屈折率、f/#は収束/発散ビームのFナンバーです。
Fナンバーが10以上になる時、#66-749 φ12.5mm +0.25λ 球面収差補正プレートを用いた時の波面エラーは、+025に近付きます (Figure 8)。
光学収差は、どの光学、イメージング、フォトニクスシステムにも存在します。ベストなシステムを実現する鍵は、これらの収差を理解し、最良の方法と部品を用いて補正することです。球面収差補正プレートは、光学設計者が設計に費やす時間を節約することができ、システム重量や製造コストの削減を可能にするツールの一つです。球面収差補正プレートは、システム内に存在する既知の球面収差を補正し、システムを一から再設計することなく、一枚の光学部品の導入だけで既存のデザインの性能を改善することができます。
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