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オプティカルコーティング入門
Edmund Optics Inc.

オプティカルコーティング入門

本ページはレーザーオプティクスリソースガイドセクション11.1, 11.2, 11.7です

オプティカルコーティング (光学薄膜) は、光学部品の透過や反射、或いは偏光特性を高めるために用いられます。例えば、未コートのガラス部品の各面では、入射光の約4%が反射されます。これにある反射防止コーティングが施されると、各面での反射率を0.1%未満まで減らすことができ、またある高反射率誘電体膜コーティングが施されれば、反射率を99.99%以上に増やすことができます。オプティカルコーティングは、酸化物や金属、或いは希土類といった材料の薄い層の組み合わせで構成されます。オプティカルコーティングの性能は、積層数やその層の厚さ、また各層間の屈折率差に依存します。本セクションでは、オプティカルコーティングの理論や一般的なコーティングのタイプ、及びコーティングの製法を考察します。

光学用の薄膜コーティングは、五酸化タンタル (Ta2O5) や酸化アルミニウム (Al2O3)、あるいは酸化ハフニウム (HfO2) といった誘電体や金属材料の薄膜層を交互に蒸着することで作られます。干渉を最大化もしくは最小化するため、各層の厚さはアプリケーションで用いられる光の波長の通常λ/4 (QWOT) もしくはλ/2 (HWOT) の光学膜厚にします。これらの薄膜が、高屈折率層と低屈折率層として交互に積層されることにより、必要となる光の干渉効果を作り出します (Figure 1)。


Figure 1: 3層BBARコーティング (広帯域ARコーティング) において、λ/4 (QWOT) とλ/2 (HWOT) の適切な組み合わせが、高透過率かつ低反射損失な結果を生み出す

オプティカルコーティングは、光学部品の性能を光の特定の入射角度や偏光状態で高めるようにデザインされています。本来設計されたものとは異なる入射角度や偏光条件で使用すると、性能上大きな低下を招く結果になります。また極端に異なる角度や偏光状態で使用した場合は、コーティングが本来持つ機能が完全に失われる結果を招きます。

オプティカルコーティング理論

オプティカルコーティングを理解するためには、屈折と反射に関するフレネルの公式を理解しなければなりません。屈折は、波がある光学的媒質から別の媒質へ通過する時の波の伝搬方向の変化で、屈折に関するスネルの法則によってその方向が決まります。

(1)$$ n_1 \sin \theta_1 = n_2 \sin \theta_2 $$

n1は入射媒質の屈折率、θ1は入射光線の角度、n2は出射媒質の屈折率、そしてθ2は屈折/反射光線の角度です (Figure 2)。

Figure 2: Light moving from a low index medium to a high index medium, resulting in the light refracting towards the interface normal
Figure 2: 低屈折率媒質から高屈折率媒質へ進む光は、法線 (破線で図示) に近づく方向に屈折する

屈折率の異なる幾層もの平行平面から成る多層薄膜コーティングの場合、どの層においてもスネルの法則でその屈折角を説明することができます。薄膜内での光線の角度は、薄膜の積層順序や各層の位置に依存しません。なぜなら、スネルの法則は各層の境界面で適用されるからです (Figure 3)。

(2)$$ n_1 \sin \theta_1 = n_2 \sin \theta_2 = n_3 \sin \theta_3 = n_4 \sin \theta_4 $$
Figure 3: The refracted angle of a ray at any layer in a multilayer thin film coating consisting of plane parallel surfaces is independent of the layer order and can be found using Snell's law
Figure 3: 光線の屈折角は、平行平面上の多層薄膜コーティング内のどの層でも、その層の積層順に関係なく、スネルの法則を用いて大きさを求めることができる

Figure 3の出射光線は、n1 = n4 になるため、入射光線と平行になります。曲面状にオプティカルコーティングが施された場合は、その曲率のために厳密には平行になりません。しかしながら、コーティングの薄さから、おおよその平行は引き続き成り立ちます1

反射の法則は、面の法線を基準にした反射光線の角度を表します。その大きさは入射光線のそれと同じになりますが、面の法線を基準にしてその方向だけが反対になります。

(3)$$ \theta_1 = -\theta_2 $$

ある媒質からその屈折率よりも小さな屈折率の別の媒質に光線が入射する時、その入射角度が2つの屈折率の比率によって定義される臨界角 (θC) よりも大きい場合は、光が全反射し、全ての光線が反射することになります (Figure 4)。入射角が臨界角と全く同じになる時、その屈折角の大きさは90°になります2

(4)$$ θ_C=sin ^{-1} \left({n_2 \over n_1}\right)$$

Figure 4: 入射角が臨界角 (θc)以上の時に生じる全反射 (Total Internal Reflection; TIR) の図解
2つの光学的媒質境界面での透過率と反射率の大きさは、透過と反射に関するフレネルの公式で表されます3
(5)$$ t_s = \frac {2n_1 \cos \theta_1}{n_1 \cos \theta_1 + n_2 \cos \theta_2} $$
(6)$$ r_s = \frac {n_1 \cos \theta_1 - n_2 \cos \theta_2}{n_1 \cos \theta_1 + n_2 \cos \theta_2} $$
(7)$$ t_p = \frac {2n_1 \cos \theta_1}{n_1 \cos \theta_2 + n_2 \cos \theta_1} $$
(8)$$ r_p = \frac {n_1 \cos \theta_2 - n_2 \cos \theta_1}{n_1 \cos \theta_2 + n_2 \cos \theta_1} $$

ここで、tp と tsはp偏光およびs偏光での透過率、rp と rs はp偏光およびs偏光での反射率、n1 と n2 は2つの光学的媒質の屈折率、θ1 は入射角、θ2 は透過または反射角です。光が垂直入射する時、θ1 とθ2 の大きさは0になり、その結果上記公式の余弦 (コサイン) 項が全て1となって、透過率と反射率の大きさは偏光状態に関係なく同じ大きさになります。これは、光が垂直入射した場合にはs偏光とp偏光に違いはないという点で直感的に理にかなっています。

Reflection occurs when light strikes electrons on the surface of the material it is entering. The electrons absorb and re-emit the light with some energy loss. Shiny, highly reflective mirrored materials have more electrons with free mobility, leading to maximum reflection and minimal transmission. 

コーティング技術

光学用コーティングの蒸着には、イオンアシストの電子ビーム真空蒸着やイオン ビームスパッタリング、先進的プラズマ蒸着やプラズマアシスト反応マグネトロンスパッタリングを始め、いくつかの物理気相成長 (PVD) 法があります (Table 1)。全てのアプリケーションに対して理想的選択となる単一成膜法というのはなく、それぞれが独自のメリットを有し、特定の使用ケースや一部重なる使用ケースに対して最善なものとなります。

  E-Beam IAD APS PARMS IBS

分光性能

 安定  安定  安定  非常に安定
膜の応力 低–中 中–高 中–高
再現性 中–高 非常に高
層の緻密性 中–高 非常に高
層の均質性 中–高 非常に高
膜の堆積時間 普通 遅–普通
UV 対応力 中–高 低–中
基板の形状 非常に幅広く対応 幅広く対応 制限 制限
相対価格 ¥ ¥¥ ¥¥ ¥¥¥
Table 1: 一般的な成膜技術の主要パラメーターがアプリケーションに高度に依存する各状況に合わせてどれが最適な技術なのかを表す (E-Beam IAD: イオンアシスト電子ビーム真空蒸着、IBS: イオンビームスパッタリング、APS: 先進的プラズマスパッタリング、PARMS: プラズマアシスト反応マグネトロンスパッタリング)

イオンアシスト電子ビーム真空蒸着

イオンアシスト電子ビーム (IAD e-beam) 真空蒸着法は、真空チャンバー内の蒸着材料を電子銃衝撃を用いて蒸発させます。蒸発によって光学面上に付着・堆積した蒸着材料は、設計した膜厚の均質で低応力な層になります。イオンアシスト電子ビームによるコーティングは、紫外 (UV) 領域において低損失で、近赤外 (NIR) 領域においては高レーザー損傷閾値 (LDT) になる特徴があります。他の成膜法に比べても薄膜設計に対する柔軟性が高く、利用可能な薄膜材料の範囲は一番広くなります。イオンアシスト電子ビーム真空蒸着機は、他の方法よりも低コストで成膜でき、より大きなコーティングチャンバーサイズにも対応します。このコーティング技術は、性能よりも柔軟性やコストを最優先事項にする状況で理想的です。なおイオン源に実際に何を用いるかに依存して、さほど緻密ではなく、スムーズさや反射率で制限され、特性の再現性がさほど高くない膜になる可能性もあります。正確な膜厚制御は、イオンビームスパッタリングやマグネトロンスパッタリングを用いる時に比べて課題になります。そのため、イオンアシスト電子ビーム真空蒸着法では、極度に低反射、あるいは高反射のコーティングを作ることができません。 For this reason, IAD e-beam evaporative deposition cannot create extremely low or high reflectivity coatings, such as an antireflection V-coat with 99.95% transmission at 1064nm.

イオンビームスパッタリング

イオンビームスパッタリング (IBS) は、非常に高い光学品質と安定性を持つ膜を作り出す高度に再現可能な成膜技術です。IBS工程中、イオンの高エネルギービームが所定の薄膜材料ターゲットに衝突し、ターゲットの粒子を「スパッタ」してはじき飛ばします (Figure 5)。このターゲット粒子は、大きな運動エネルギー (~10-100 eV) を与えられて光学部品表面に衝突・付着し、緻密で硬く、滑らかな膜を形成させます7。IBSの主たるメリットの一つに、成膜レートや酸化レベル、エネルギー入力を始めとするパラメータの正確な監視と制御が行え、高度に再現可能な成膜が行える点があります。高速な基板回転も卓越した膜厚層精度に貢献します。99.9%を超える反射率を持つ超低損失ミラーや超短パルスレーザーアプリケーション向けのチャープミラー、またとても急峻な波長転移特性を持つフィルターを始め、要求の最も厳しい光学用コーティングをIBSで作ることが可能です。他の成膜技術と比べても、IBSコーティングの性能は温度や湿度といった環境ファクターに影響を余り受けません。しかしながら、より高い応力やUV領域における損失を始め、IBSコーティングにはいくつかの弱点があります。 Slower growth rates and chamber sizes also lead to a significantly higher relative cost than other coating methods, which limits IBS to certain applications when high performance is required.

Figure 5: During ion beam sputtering (IBS), a strong electric field accelerates ions from an ion gun onto the target, which releases more ions that deposit a dense thin film coating on the rotating substrates
Figure 5: IBSは高エネルギーイオン銃を利用してターゲット粒子をはじき飛ばし、回転する基板上に成膜する高度に制御可能なプロセスで、非常に正確で再現可能な光学薄膜になる

先進的プラズマスパッタリング

先進的プラズマスパッタリング (Advanced Plasma Sputtering; APS) は、イオンアシスト (IAD) 電子ビーム真空蒸着の修正バージョンで、先進的なオートメーションプロセスに対応しています。APSは、薄膜材料を蒸着するのに、イオンビームの代わりに熱陰極直流グロー放電プラズマを利用します。コーティングチャンバー全体をプラズマで充填し、ターゲット粒子をはじき飛ばして光学面上にそれを蒸着させます。APSは、滑らかで緻密、また硬い膜になり、IAD 電子ビーム蒸着よりも安定した光学特性を提供しながら、同成膜法の強みである高次元の柔軟性はそのまま維持します。APSは、IAD 電子ビーム真空蒸着と同様の価格構造で大量に成膜することもでき、要求の更に厳しい性能要件の膜を多量に作る時により好まれます。しかしながら、APSの応力はより高く、UV領域での損失はより多くなり、IAD 電子ビーム真空蒸着に比べるとわずかに高コストにつながる反復工程開発を要します。多くの側面において、APSはマグネトロンスパッタリングと同様に、IAD 電子ビーム真空蒸着とIBSの中間的ソリューションとみなされることがあります。

プラズマアシスト反応マグネトロンスパッタリング

プラズマアシスト反応マグネトロンスパッタリング (Plasma Assisted Reactive Magnetron Sputtering; PARMS) は、プラズマ生成ベースの別の成膜技術です。APS中に生成されるグロー放電プラズマをコーティングチャンバー全体に充填する代わりに、磁界がターゲット付近にだけそれを制限させます。プラズマが正イオンをターゲット上に加速させてターゲット粒子をはじき飛ばし、光学面上に蒸着させます。PARMSは、プラズマの制限によって相対的に低圧のチャンバー内で高効率に稼働します。この低圧稼働は、セットアップに要する時間を短縮し、大量の光学部品のより経済的な成膜を可能にします。PARMSで形成される薄膜コーティングは、コーティングの化学量論を改善する反応性ガスの付加によって、硬くて緻密なものになります。PARMSは高度に再現可能ですが、IBSほどではありません。しかしながら、PARMSはスループットが高く、高価格・高性能なIBS成膜法とIAD 電子ビーム真空蒸着などの経済的成膜法間の中間的位置づけとして魅力的な存在です。PARMSは、相対的に高い光学性能と大量生産時のスループットの技術バランスから、蛍光フィルターの製造によく用いられます。 PARMS is often used to manufacture fluorescence filters because of the technology’s balance of relatively high optical performance and relatively high-volume throughput.

参考文献

  1. Willey, Ronald R. Field Guide to Optical Thin Films. SPIE Optical Engineering Press, 2006.
  2. Greivenkamp, John E. Field Guide to Geometrical Optics. SPIE Optical Engineering Press, 2004.
  3. Paschotta, Rüdiger. Encyclopedia of Laser Physics and Technology, RP Photonics, October 2017, www.rp-photonics.com/encyclopedia.html.
  4. Vandendriessche, Stefaan. “No One-Size-Fits-All Approach to Optical Coatings.” Photonics Spectra, Photonics Media, December 2016.
  5. “IBS Mirror Coatings for Highly Demanding Applications.” Photonics News, Laser Components Group, August 2016, www.lasercomponents.com/uk/news/ibs-mirror-coatings-for-highly-demanding-applications

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