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色収差と単色光学収差
Edmund Optics Inc.

色収差と単色光学収差

光学系の設計作業が簡単になることはありません。なぜなら、パーフェクトにデザインされたものであっても、光学収差が含まれているからです。光学系を構築するためには、色々とある光学収差を理解して、補正していくことが肝心です。それを行うために、まずは光学系の中に生じる収差の種類を考えていきましょう。

光学収差の大きさは、パーフェクトな計算上のモデルからのずれ量に相当します。光学収差は物理的、光学的、或いは機械的な不備から生じるものではないことを理解しておくことが重要です。むしろ、光の波としての性質から、レンズの形状自体、或いは光学系内での各素子の配置によって引き起こされます。光学系は、近軸理論または仮想レンズを用いて通常設計され、像のサイズや位置を算出しています。仮想レンズは、収差を想定しておらず、光を光線としてのみ扱っているため、収差を引き起こす波としての事象は考慮されていません。

光学収差は、いくつかの異なる方法で名前が付けられ、またグループ分けされています。便宜上、今回は収差を2つのグループに分けて考えてみることにします。色収差 (光の波長が複数ある場合に生じる収差) と単色収差 (光の波長が一つだけの場合に生じる収差) です。

色収差 (CHROMATIC ABERRATIONS)

色収差は、横色収差と縦色収差の2つのタイプに更に分類されます。なお横色収差は倍率色収差、対する縦色収差は軸上色収差とも呼ばれます。縦色収差は、更に一次と二次の色収差に分けられます。

横色収差 (Transverse chromatic aberration; TCA)がある時、像のサイズが波長毎に変化します。言い換えれば、白色の光が用いられた時、赤、黄、青の波長が像面の各々異なる地点で焦点を結びます (Figure 1)。光学の世界では、656.3nm (赤)のスペクトルはC線、587.6nm (黄) のスペクトルはd線、486.1nm (青) のスペクトルはF線として知られます。これらの呼称は、水素 (F線とC線)やヘリウム (d線)の輝線スペクトルに起因します。

縦色収差 (Longitudinal chromatic aberration; LCA)がある時、ガラスの分散する性質によって、波長毎に光軸上の異なる地点に焦点を結びます。ガラスの屈折率は波長に依存するため、光を構成する各波長の焦点地点がわずかながら異なる効果を生み出します。結果として、F線、d線、C線の光軸上における焦点位置が各々別になります (Figure 2)。

Transverse Chromatic Aberration of a Single Positive Lens

Figure 1: 正の焦点距離を有する単レンズの横色収差

Longitudinal Chromatic Aberration of a Single Positive Lens

Figure 2: 正の焦点距離を有する単レンズの縦色収差

Achromatic Doublet Lens Correcting for Primary Longitudinal Chromatic Aberration

Figure 3: ダブレットのアクロマティックレンズは、一次の縦色収差を補正する

一次の縦色収差の補正は、屈折率の異なる正と負のレンズ素子で構成されたダブレットタイプのアクロマティックレンズ1枚を用いることで通常行われます (Figure 3)。このタイプの補正では、F線とC線の焦点を同一面上で結ばせますが、d線の焦点位置はわずかに異なる結果となり、色収差が残存することになります。

この残存する縦色収差を補正するために、より複雑なレンズやレンズ系を用いて、d線の焦点位置をF線とC線の軸上焦点位置にまでシフトさせる必要があります。この補正は、3波長の焦点を同一地点上で結ばせるアポクロマートレンズや、4波長で同様のことを行うスーパーアクロマートレンズ1枚用いることで通常実現できます。各々のタイプのレンズの焦点シフトの比較をFigure 4a – 4dに示します。

Focus Shift Illustration of No Aberration Correction with a Singlet Lens

Figure 4a: 収差補正のない単レンズによる焦点シフトの様子

Focus Shift Illustration of Primary Longitudinal Chromatic Aberration Correction with an Achromatic Lens

Figure 4b: 一次の縦色収差を補正するアクロマティックレンズによる焦点シフトの様子

Focus Shift Illustration of Secondary Longitudinal Chromatic Aberration Correction with an Apochromatic Lens

Figure 4c: 二次の縦色収差を補正するアポクロマートレンズによる焦点シフトの様子

Focus Shift Illustration of Secondary Longitudinal Chromatic Aberration Correction with a Superachromatic Lens

Figure 4d: 二次の縦色収差を補正するスーパーアクロマートレンズによる焦点シフトの様子

単色収差

単色収差の種類は、色収差のそれよりもはるかに多いため、名前だけでなく波面係数を用いて識別されることがあります。例えば球面収差は、$ \small{W_{040}} $ の波面係数を有します。この波面係数は、理想波面と収差を持つ波面間の実際の違いの数学的総和によって得ることができます:

(1)$$ W = \sum_{l + k +m = 0} ^{\infty} { \bigg[ W_{klm}\cdot H^k \cdot \rho^l \cdot \cos ^m \left( \theta \right) \bigg]} $$



公式(1)において、$ \small{W_{klm}} $が波面係数、$ \small{H} $が正規化した像高、$ \small{\rho} $が瞳位置、$ \small{\theta} $が2つのベクトルのドット積から得られる両ベクトル間の角度になります。波面係数が一旦わかると、lや$ \small{k} $を加えることで、次数を求めることができます。しかしながら、この公式は偶数の次数を常に作り出すことになります。光学収差は1次、3次、5次などのように大抵表わされるため、もし$ \small{k + 1 =2} $ であるならそれが1次収差、また$ \small{k + 1 =4} $ であるならそれが3次収差ということになります。一般的には、1次と3次の収差だけがシステム解析のために必要となります。より高次の収差も存在していますが、光学系が複雑になるため、それらの収差を補正することはあまり行われません。通常、高次の収差を補正する際の複雑性は、画質を改善する価値に見合いません。代表的な3次の単色収差や、それに対応する係数や方程式をtable 1の表にまとめました。

収差名波面係数方程式
チルト $$ W_{111} $$ $$ W_{111} \cdot H \cdot \rho \cdot \cos{\left( \theta \right)} $$
デフォーカス $$ W_{020} $$ $$ W_{020} \cdot \rho ^2 $$
球面 $$ W_{040} $$ $$ W_{040} \cdot \rho ^4 $$
コマ $$ W_{131} $$ $$ W_{131} \cdot H \cdot \rho ^3 \cdot \cos{\left( \theta \right)} $$
非点 (アスティグマ) $$ W_{222} $$ $$ W_{222} \cdot H^2 \cdot \rho^2 \cdot \cos^2{\left( \theta \right)} $$
像面湾曲 $$ W_{220} $$ $$ W_{220} \cdot H^2 \cdot \rho^2 $$
歪曲 (ディストーション) $$ W_{311} $$ $$ W_{311} \cdot H^3 \cdot \rho \cdot \cos{\left( \theta \right)} $$

Table 1: 代表的な3次収差

オプティクスイメージングのシステムには、複数の光学収差が通常混ざり合って存在しています。これらの光学収差は、色によるものか、あるいは単色によるものかで分類することができます。収差は画質を常に低下させるため、大抵の光学デザインは、これらの収差を認識し、かつ少なくしながら焦点を結びます。収差を補正するための最初のステップは、その異なる種類と、システム性能にそれらがどのような影響を及ぼすのかを理解することです。この知識を持つことにより、可能な限りベストなシステムの設計作業を行うことができます。色収差や単色収差の特定や補正に関する詳細な情報は、光学収差の比較をご覧ください。


引用文献:

  1. Dereniak, Eustace L., and Teresa D. Dereniak. Geometrical and Trigonometric Optics. Cambridge: Cambridge University Press, 2008.
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