Iris AO社とEdmund Optics®の新たな補償光学モジュールが容易な波面補正を実現する
Iris AO社は、自社のDM特有のデザインメリットを市場に認知してもらう必要があると感じていました。デフォーマブルミラーは、それ自体が製造的専門性を印象づけるものですが、製品自体の対応力を紹介する機会にはなりません。Iris AO社は、同社のデフォーマブルミラーの対応力をデモンストレーションするため、完成された補償光学モジュールを製作しました。このモジュールは、入射ビームを画像化し、デフォーマブルミラーを電気的に操作することでビーム品質が向上できることをデモします。このモジュールには、デフォーマブルミラーとカメラ、そして関連するミラーやマウント製品が必要でした。
Edmund Optics®のエンジニア達は、Iris AO社のデモを発見し、Iris AO社がビーム品質を向上させそれを維持するために直面していた課題に気付きました。EOのエンジニア達は、以前にも別の顧客にこうした課題のサポートを行っていました。その結果、改善に向けた議論がすぐに行われました。EOのチームは、Iris AO社にカメラインターフェイスの変更、安定した光学マウントの使用、そしてより高精度なコーティングと表面品質を持つオプティクスの検討を推奨しました。その翌年、Iris AO社のデモには以下の製品が組み込まれます: シンプルで信頼性により秀でたカメラインターフェイスを装備するCMOSセンサー採用の白黒USBカメラ、レンズのコバ面を墨塗り塗装することで光学的性能の向上、迷光の低減、システムのS/N性能向上を可能にする様々なアクロマティックレンズ、システムの反射率と全体スループットを向上させる反射強化アルミコートを蒸着したミラー、そしてシステム内のアライメントをサポートし、不要な振動を低減する、安定性と再現性の高いEOのキネマティックマウントです。こうした改善の全ては、EOの豊富な標準規格品の製品群を用いて行われました。
Iris AO社のエンジニア達は、デモ用ツールとして作成したこのスタンドアローンモジュールが、ユーザーが補償光学の適応力を個々のアプリケーション内へ適用していける実装ユニットとしても機能することに気づきました。このモジュールにより、ユーザーは補償光学の能力を個々のシステム内に容易に実装できるようになります。しかしながら、Iris AO社の顧客は、UVからIRまでの波長にわたるアプリケーションを含め、様々なニーズを抱えています。こうした顧客に適宜対応していくためには、表面品質やコーティングのスペック別に複数の異なるバージョンのモジュールを用意し、システムの性能要件個々にサポートしていく必要があります。Iris AO社は、信頼性の高いデモモジュール製作の際にサポートを受けた光学部品サプライヤーに再度サポートを依頼しました。Edmund Optics®です。
Edmund Optics®は、補償光学モジュールの開発プロジェクトをサポートするのに独自のポジションにいました。EOは、在庫販売品オプティクスで世界最大級の在庫量を誇り、在庫品の迅速な二次加工サービスと、あらゆる種類の光学部品製造に対応する社内設備を完備しています。Iris AO社は、同社のシステム性能を飛躍的に向上させるためにEOと提携し、EO社内の設計ノウハウと幅広い在庫品、そして特注製作のオプティクスを活用しました。EOは数多くの部品の仕様化と製造を行い、製造工程を完全に文書化・管理しています。これにより、設計から試作、そして量産に至る製品のライフサイクル全体に対し、高品質な部品が供給されるという確信をIris AO社を含む顧客に与えます。オプトメカニクスや高品質カメラといったEOの豊富な在庫販売品も、Iris AO社が製品の仕様に妥協することなくシステムデザインを最適化できることを意味していました。
例えば、Iris AO デフォーマブルミラーは、湿度40%未満の制御された環境内であれば、追加の保護なしで機能する堅牢性があります。Iris AO社は、ミラー面の不意の接触やコンタミに対する保護として、同社のDMにカバーガラス窓をパッケージすることを決定しました。この時の懸念は、このカバーガラス窓が光の透過率を低下させ、“ゴースト像”を作り出したり、不要な波面エラーを光学系内に招いてしまう可能性があることでした。また、Iris AO社は同社のDMの高いレーザー耐力をサポートしないウインドウを導入したくはありませんでした。同社は、Edmund Optics®が社内で行う二次加工サービスを利用し、標準規格品の光学部品を部分修正することで、同社固有のウインドウとして適用しました。Iris AO社 - EOのこの特注ウインドウは、20mm径、3mm厚、λ/20の平面度を有し、最適化されたVIS-NIR用反射防止コーティングが蒸着されています。
カメラもシステムのニーズを満たすように選定されました。高速インタフェースと簡単なカメラセットアップは、Iris AO社のDMで可能な独自の制御システムアーキテクチャーのメリットを生かしていくのにも必要不可欠です。EOのエンジニア達は、一般的なラボソフトウェアを用いた容易なセットアップを可能にするシンプルかつ高速なUSBカメラインターフェイスを推奨しました。
Iris AO社のモジュールデザインをサポートする過程の中、EOのエンジニア達はこの種の補償光学の対応力がEOの顧客の多くにも大いに役立つかもしれないと感じました。光学イノベーションの最前線にある両社の共同プロジェクトの最後は、Edmund Optics®がIris AO補償光学モジュールをEOの顧客に向けて販売するという合意でした (EO商品コード #33-740)。
補償光学系をシステムに組み込む設計者は、通常デフォーマブルミラーを波面センサーと組み合わせて使用します。波面センサーからの信号は、完全なビームあるいは平面波からの偏差量を見積ります。波面センサーからの偏差信号をコンピューターで処理すると、デフォーマブルミラー上の個々のアクチュエーターを制御する電圧セットに置換されます。ビームが適切に補正されるには、デフォーマブルミラーでの各電圧値が波面センサーでの信号の大きさと相関していなければなりません。残念なことに、大抵のデフォーマブルミラーは、ミラーの機械的または熱的ドリフトや、光路内で起こる不安定性のため、アクチュエーター電圧と波面センサー計測値間の関係が頻繁にシフトします。Iris AOモジュールは、この共通して起こる相互作用を回避し、より簡単に使用することができます。
実際、標準モジュールは、波面センサーを使用していません。Iris AO社独自のデフォーマブルミラーのデザインは、これが可能です。これにより、アクチュエーター電圧とセグメント変位の関係は時間が経過しても一定に保たれ、非常に安定します。ミラーは製品出荷前にキャリブレーションされており、それは向こう数年間にわたり有効性を維持します。
この安定性は、より単純な波面補正方法を可能にします。予め規定された一連の形状を通してデフォーマブルミラーを動作させながら、制御システムがその画質を評価します。円形アパーチャーの場合、最も便利な形状は当然ゼルニケ関数です。ミラーを55個のゼルニケ関数セットを用いてスキャンしながら、ソフトウェアがその画質を追尾します。アルゴリズムが各ゼルニケ関数の最良の大きさを組み合わせて、画質全体を最適化する一組のアクチュエーター制御電圧を生成します。
補償光学モジュールは、2つの企業が協力し、個々の強みを活かして生まれた成果と言えます。Iris AO社は、独自のデフォーマブルミラー構造と革新的な制御システム設計への深い造詣があります。Edmund Optics®は、特殊な光学コーティングからカメラ特性に至る、光学部品の機能に関する幅広い知識に加え、厳しい性能スペックをサポートするのに必要となる安定性かつ再現性に秀でたマウントがあります。ミラーの安定性、オプティクスの品質、カメラインターフェースに対する明晰、制御アルゴリズムの単純性全てが組み合わさり、補償光学モジュールをプラグ・アンド・プレイ操作が可能なサブシステムへと仕立てました。この新たなモジュールは、補償光学のパワフルさと固定パーツの容易な実装を提供します。設計者は、位相測定や波面再構成の複雑性を習得することなく、初めてでもアプリケーション固有の収差を補正することができます。
高性能光学システムの設計者は、こうしたシステムを可能な限り完璧にするため、多くの努力を行います。成功した暁には、光の本質の物理的挙動によって性能が制限される光学系を作ることになります。いわゆる回折限界のシステムです。回折限界のシステムであれば製造上の不正確さやアライメントの公差が大変小さいため、画質に影響を全く及ぼさないことになります。 しかしながら、光学系の完成度がほぼ完全であったとしても、対象物が歪み媒体を介して伝搬されてくる場合には、良質な画像を得ることができません。
例えば、天文学者達は遠く離れた星の完璧な画像を得るために多くの時間と費用を費やし、口径の非常に大きな望遠鏡を構築します。しかしながら、星からの光が大気に入ると、それが不均一に伝搬して、波面のある部分は他の部分よりも遅れて伝播することがあります。望遠鏡の開口部全体に入射する光の伝播に局所的に遅れが生じ、その波面が歪むために、望遠鏡は厳格で鮮明な画像を作れなくなります。それまでの天文学者達にとって、良質な画像を得るための唯一の選択肢は、大気の伝搬状態が良好になることを待つことでした。しかし、大気が良好な状態であったとしても、望遠鏡の口径が大きくなればなるほど、ビームの収差が大きくなる可能性が高くなります。
数十年前、一連の技術的なブレークスルーがイノベーションへと繋がり、口径の大きな望遠鏡にも可能性を開きました。それが補償光学です。補償光学システムは、ビームの収差量を検出し、デフォーマブルミラーの面形状を修正して、媒体により誘発される伝播誤差を補償します。今では、直径が数メートル級の望遠鏡でも回折限界画像を得ることができます。
補償光学の恩恵を受ける分野は天文学だけではありません。網膜イメージングも補償光学によって大幅に改善されています。眼の中の媒質は、大気と同じように光学的伝搬を阻害します。数十年前、網膜を画像化したいと思った研究者や臨床医達にはそれを改善する術が殆どなく、曖昧な観察画像を得ることのみでした。今では補償光学をその画像システムの中に実装することで、網膜内の単一細胞をはっきりと示す画像が得られるようになりました。
補償光学技術はその後急速に進化し、この2つの分野で適用された後も更に新たなアプリケーションで用いられ始めています。例えば、レーザー溶接でのビーム歪みやフリースペース光通信の速度を制限する収差を補正するのに補償光学を用いることができます。補償光学は、コヒーレントなビームの合成など、伝搬媒体の阻害が実質問題にならないアプリケーションでも使用できます。テクノロジーによって対応力がより増し、より使いやすくなるに従い、今後も新たなアプリケーションが生まれてくることでしょう。
デフォーマブルミラーは、補償光学システムの心臓部にあたります。デフォーマブルミラーは、その名前が示す通り、制御信号の組み合わせに応じてその形状を変化させることができます。個々のアクチュエーターに制御信号が送られ、アクチュエーターの長さは個々の電圧の大きさに応じて変化します。アクチュエーターのストロークの間隔、ポジション、そして長さは、デフォーマブルミラーのモデルにより異なります。デフォーマブルミラーには、連続面シート型とセグメント型の2種類に大別されます。
連続面シート型のデフォーマブルミラーは、単一の薄い反射膜で構築され、アクチュエーターがその裏面側に取り付けられています。これに対してセグメント型の同ミラーは、複数の独立した反射面で構築され、アクチュエーターが各面に取り付けられています。アクチュエーターには、圧電式や静電式を始め、多くの駆動タイプが存在します。
Iris AO デフォーマブルミラーはセグメント型デザインを採用し、六角形状の各セグメントを3台の静電アクチュエーターで駆動しています。他のデザインタイプについての詳細を説明することなく、Iris AO社のデザインの機能と利点の一部を概説することは可能です。
Iris AO社は、3つの対称電極上に可動プラットフォームを構築するため、MEMS技術を用いて作られます。製造工程中にポリシリコン内部に残留応力が作り、六角形状の各セグメントは基板に取り付けられた3つの撓み (フレクシャ) によってベース面上で解放されます。3つの電極上の電圧は、各セグメントのプラットフォームと基板との間の距離を変化させるとともに、チップ表面に対する基板の角度の制御にも用いられます。各セグメントにはピストン、チップ、そしてチルト方向の独立した3つの自由度があります。Iris AO社のデフォーマブルミラーの37セグメントモデルは、111のピストン-チップ-チルト用のアクチュエーターが付いており、それが同社のモデル番号にも与えられています。
Iris AO社の DMデザインの別のユニークな要素に、独立した反射セグメントの製造があります。反射型六角形状は、別のマイクロマシニングステップで生産され、その後ポリシリコンアクチュエーター・プラットフォームアレイにフリップチップボンディングされます。これにより、セグメントの厚さの制約をなくすことができます。つまり、各セグメントの剛性が高めるために厚くでき、優れた表面品質 (20 nm RMSより優れた平面度) を持たせることができます。
フレクシャ/アクチュエーターアッセンブリの能動的制御は、反射ミラーセグメントの独立した製造と共に、Iris AO社の DMに異常とも言える安定性を与えます。特定のミラー形状を生成するための電圧セットが加えられると、その形状はDMを電源オフにするまで変化しません。加えて、ミラーセグメントに厚みを持たせることは、DMに高いレーザー損傷閾値を持たせることにもなります。設計アプローチへの別の大きなメリットは、キャリブレーション、即ち印加電圧とセグメント位置間の関係、がファクトリーセットされ、向こう数年にわたりその正確性を維持することです。こうしたメリットの組み合わせにより、Iris AO社のDMは、補償光学の恩恵を受ける多くのアプリケーションに対して明白な選択肢となります。
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