ハードコーティングのメリット
コーティングの付いた光学部品に一般的に用いられてきた従来からあるソフトコーティング技術は、ハードコーティングとして知られるより性能の高いコーティング技術によってじきになくなってしまうかもしれません。以下に詳細を示す通り、ハードコーティングは従来のソフトコーティングにはない幾つかのメリットがあるからです。
ソフトコーティング
ソフトコーティングは、硫化亜鉛や氷晶石、また時には銀といった薄膜層を積層して作られます。伝統的な干渉フィルターの場合、コートの施された複数の部品を垂直方向に積み上げ、周囲環境から保護するためにラミネート加工して一体化し、大きなウェハー状からコア抜きして作られます。その使用する材料と製造工程により、ソフトコーティングは耐久性が高くありません。周囲環境に含まれる水分により引き起こされる膜の劣化を防ぎ、コーティングの寿命を延ばす目的のため、コーティング材料をフィルターの最外周面から隔離することが通常行われます。完成した製品の図解をFigure 1に示します。
Figure 1: 薄膜コーティングを採用する伝統的な干渉フィルターの内部構造
ソフトコーティングに係る費用は、蒸着装置の稼働コストの低さや速いサイクル時間、安価なフロートガラス基板によって低コストを維持していますが、シーリング加工やリング (金枠)の組み付けといった取り扱いに要する費用は高くなります。コストと生産数量の関係は、少量だと高額になり、数十枚またはそれ以上の枚数を超えた後から安定してきます。
ハードコーティング
ハードコートの膜は、プラズマ蒸着工程を用いて製膜され、ソフトコーティングにはない複数のメリットを提供します。プラズマ蒸着工程は、コンピュータを用いて厳格に管理されるため、膜が均一で、耐環境に優れ、更には光学性能を向上させます。例えば、ハードコーティングの波長に対する透過特性は、ソフトコーティングのそれに比べてより一貫性を保ち、またより高いのが一般的です。
Figure 2で示した通り、ハードコーティングは、可視域やUV域内において90%を超える透過率を得ることができます。これに対して、ソフトコーティングは90%の透過率が得られることは決してなく、UV域内では性能の低下が顕著に現れます。また、両者のコーティングにはカットオンやカットオフといった波長転移にも違いが見受けられます。ソフトコーティングが透過率ゼロから最大透過率までの変移が徐々に行われてゆく傾向なのに対し、ハードコーティングはその転移が急峻に行われます。
Figure 2: ソフトコーティングとハードコーティングの性能比較
ソフトコーティングとハードコーティング技術の性能比較 | |||
属性 | ソフトコーティング | ハードコーティング | 補足 |
---|---|---|---|
寿命 | 1 ~ 5 年 | 無期限 (通常の使用条件下において) | ソフトコーティングは耐環境的に影響を受けやすく、とりわけ湿気に弱い。記載した寿命は、一般的な室内環境を想定。 |
温度変化に対する安定性 | 平均で50 ppm (一定波長において) | 5 ppm以下 (一定波長において) | ソフトコーティングは、1nmのフィルター公差に対して±15°C内の温度制御が必要。ハードコーティングは1550nmにおいて$ 1 \tfrac{\text{pm}}{\text{K}} $以下 ($ 1 \tfrac{\text{ppm}}{\lambda} $よりもかなり少ない) を実現可能。 |
製造の再現性 | 低 | 高 | ハードコーティング製造時の完全な自動化プロセスにより、再現性の向上が可能になる。 |
透過波面精度 | λ/4 PV 以下を実現可能 | λ/4 PV 以下を実現可能 | ハードコーティングの透過波面精度の値は、未コート品の光学部品のそれと基本変わらない。ソフトコーティングは、ラミネート加工後に追加の研磨工程を行わなければならない。 |
生産コスト | 大量生産時なら平滑化 | 製造の再現性と自動化プロセスにより低 | 大量注文時に、ハードコーティングをソフトコーティングと同じかそれ以下の費用で販売することも可能。 |
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