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パッシブなアサーマル化 (熱的補償)への手引き
Edmund Optics Inc.

パッシブなアサーマル化 (熱的補償)への手引き

熱的なデフォーカス | アクロマティックかつアサーマルなダブレットの計算式 | アクロサーマルなガラスとハウジング材料の選定法

温度変動があるアプリケーションでは、熱的補償がされた、即ちアサーマル化された光学系を開発することが重要です。アサーマルな光学系であれば、システムにデフォーカスを引き起こす要因となる周囲環境の熱的変化にも影響を受けません。材料の熱膨張係数 (Coefficient of Thermal Expansion; CTE) や 屈折率の熱的影響  $ \left( \tfrac{\text{d}n}{\text{d}T} \right) $ に依存するアサーマルなデザインの開発は、赤外用途においては特に重要になります。大抵のIR透過材料は、可視域で使用するガラスよりも$ \tfrac{\text{d}n}{\text{d}T} $の値が桁外れに大きいため、屈折率に大きな変化をもたらします。加えて、光学系は通常空気中を前提にデザインされているのに対し、ハウジングの材料も熱的変化に敏感であることから、熱的補償デザインを検討する際にそのことも考慮に入れなければなりません。

熱的なデフォーカス

温度変化が原因で起こる材料の膨張や収縮は、材料の熱膨張係数 $ \small{\alpha} \left( \times \small{10^{-6}} \tfrac{\text{m}}{\text{K}} \right) $に支配されます。温度変化 ΔTが原因で起こる材料の長さ $ \small{ \left( L \right)} $の変化量 $ \small{ \Delta L } $は、公式1のように表されます。

熱的なデフォーカスとは、熱的変化に伴い屈折率の温度に対する変動量 $ \left( \tfrac{\text{d}n}{\text{d}T} \right) $や材料の膨張が原因で起こる光軸上の焦点位置の変化をさします。空気中にあるレンズの温度変化ΔTに対する焦点距離の変動量 $ \small{\Delta f} $を定量化する比例式は公式2のように表されます。ここで、$ \small{\beta} $は熱光学係数を表します。

$ \small{\beta} $の大きさは公式3を用いて定義されます。ここで、$ \small{\alpha_g} $はガラスのCTEを指します。$ \small{\beta} $に関する公式には、空気中における屈折率の熱的変化量に関する項が含まれるべきですが、この項はIR透過材料の $ \tfrac{\text{d}n}{\text{d}T} $ の大きさに比べるとかなり小さいため、ここには含まれていません。そのため、この近似式は可視域においては用いられるべきではありません。IR域とは違い、可視域では空気の影響の方が熱光学係数よりも大きな影響を及ぼします。

一定の熱膨張係数$ \small{\alpha_h} $を有するハウジング内に固定されたレンズの場合、焦点位置の変化量は、レンズの焦点距離の変化量とハウジングの膨張が原因で起こる像面位置の変化量の組み合わせになります (公式4とFigure 1参照)。ハウジング長の変化量がレンズが原因で起こる焦点の変化量と等しいなら、その時のデフォーカス量はゼロになり、その光学系はアサーマルであると見なされます。

Defocus of a Lens in a Metal Housing with a Change in Temperature

Figure 1: 温度変化$ \small{ \left( \Delta T \right)} $があった時の金属ハウジング内のレンズのデフォーカス量 $ \small{ \left( \Delta f \right)} $

アクロマティックかつアサーマルなダブレットの計算式

良く見かける光学素子の一つに、ダブレット構成のアクロマティックレンズがあります。このレンズは、異なる材料で作られた正と負のレンズ素子から構成され、各素子が持つ色収差の大きさは等しく、その符号だけが異なります。これにより、レンズ全体としての色収差を補正しています。一枚の素子が空気中にあると仮定すると、長波長側 (longest), 短波長側 (shortest), 及びその中間波長 (middle)で定義された任意の波長帯に対するアッベ数$\small{\text{\nu}}$ (分散能の逆数)の大きさは、公式5で与えられます。もし公式6と公式7を満足するなら、その結果はダブレットタイプのアクロマティックレンズとなります。最上のソリューションは、2つのレンズ素子のアッベ数差Δνを最も大きくさせることです。

$ \small{ \Delta \nu } $の大きなレンズ素子同志の組み合わせは、合成レンズとしての焦点距離をより長く (パワーを低く)し、曲率をより浅くすることにつながり、収差を減らし、光学性能を向上させます。光学ガラスチャートを見れば、大きなアッベ数差を持ったクラウンガラスとフリントガラスを視覚的に探すのは容易です。またこれに類似して、熱アッベ数と通常呼ばれる熱光学係数の逆数をアクロマティックレンズの公式に用いることで、アサーマルなダブレットレンズを設計することができます (公式8と9)。アクロマティックとアサーマルのダブレットレンズの公式の全てを満足するダブレットレンズを設計できれば、その結果は“アクロサーミック”な系、即ちアクロマティックでアサーマルな光学系となります (公式10)。

熱アッベ数 $ \small{\left( \nu_T \right)} $と色のアッベ数を軸にした相関図を作ることで、アクロサーミックな光学系を開発するのに用いることができる2つの材料を視覚的に特定することができます。一次関数式 $ \small{y = mx + b} $ ($ \small{m} $は傾き、$ \small{b} $はY軸上切片)を用い、切片がゼロになる一つの材料 $ \left( \nu_1, \, \nu_{T1} \right) $を設定すると、$ \small{m} = \tfrac{\nu_{T1}}{\nu_1} $の傾きとなります。アクロサーミックなダブレットレンズの公式から、色の補正とアサーマル化を実現するには、2つの異なる材料の傾きを等しくする必要があるため、2つの材料を直線で結び、その直線の延長上に原点があることが、アクロサーミックなソリューションになることがわかります。Figure 2に示してある通り、IG5 とAMTIR1の組み合わせは、LWIR (8 - 12μm)の波長において、空気中でほぼアクロサーミックなソリューションとなります。 補足: このグラフは、システムのメカニカルハウジングの膨張は何も考慮に入れていません。

Sample νT vs. ν Chart for the LWIR

Figure 2: LWIR (8-12 μm)での$ \small{\nu_T} $ と $ \small{\nu} $ のサンプルチャート

アクロサーマルなガラスとハウジング材料の選定法

熱アッベ数 $\small{\nu}$-number $\left( \small{\nu_T} \right) $と色のアッベ数をプロットする代わりに、熱光学係数 $\left(  \small{\beta}  \right) $と色のアッベ数の逆数をプロットする方法があります1。この方法であれば、2つの光学材料の特定だけでなく、ハウジング材料のCTEの特定も可能にします。ハウジングで固定されたアクロサーミックなソリューションです。Figure 3に示してある通り、2つの光学材料を結んだ直線の延長線上がY軸と交差するところのY軸上切片が、必要とされるハウジング材料のCTEになります。必要とされるCTEを持つ単体のハウジング材料が見つからない場合は、二種類の金属から成るハウジングや代案となるメカニカルハウジングのソリューションを用いることで、そのCTEを実現することができます。

Generic Athermal Glass Map Plotting β vs. (1/ν)

Figure 3: $ \small{\beta} $と $ \tfrac{1}{\nu} $をプロットした包括的なアサーマルガラスチャート

この方法は、空気の$ \tfrac{\text{d}n}{\text{d}T} $が光学材料のそれに比べて小さいという前提に依然立っています。このことは、赤外用システムであれば正ですが、空気のは可視領域で動作するシステムに向けては考慮に入れていかなければなりません。本内容に関する更なる情報やアサーマル化の他の方法は、以下に記載した資料を参照ください。

(1)$$\Delta L = \alpha L \Delta T $$
(1)
$$\Delta L = \alpha L \Delta T $$
(2)$$\Delta f = \beta f \Delta T $$
(2)
$$\Delta f = \beta f \Delta T $$
(3)$$\beta_r  = \alpha_g - \frac{1 }{n -1} \frac{\text{d} n}{\text{d} T}  $$
(3)
$$\beta_r  = \alpha_g - \frac{1 }{n -1} \frac{\text{d} n}{\text{d} T}  $$
(4)$$ \Delta f = f \left( \beta _{\text{Lens}} - \alpha_h \right) \Delta T $$
(4)
$$ \Delta f = f \left( \beta _{\text{Lens}} - \alpha_h \right) \Delta T $$
(5)$$ \nu = \frac{n_{\text{Mid}} -1 }{n_{\text{Short}} - n_{\text{Long}} } $$
(5)
$$  \nu = \frac{n_{\text{Mid}} -1 }{n_{\text{Short}} - n_{\text{Long}} } $$
(6)$$ \frac{\Phi_1}{\Phi}= \frac{\nu _1}{\nu_1 - \nu_2} $$
(6)
$$ \frac{\Phi_1}{\Phi}= \frac{\nu _1}{\nu_1 - \nu_2} $$
(7)$$ \frac{\Phi_2}{\Phi}= \frac{\nu _{2}}{\nu_{1} - \nu_{2}} $$
(7)
$$ \frac{\Phi_2}{\Phi}= \frac{\nu _{2}}{\nu_{1} - \nu_{2}} $$
(8)$$ \frac{\Phi_1}{\Phi}= \frac{\nu _{T1}}{\nu_{T1} - \nu_{T2}} $$
(8)
$$ \frac{\Phi_1}{\Phi}= \frac{\nu _{T1}}{\nu_{T1} - \nu_{T2}} $$
(9)$$ \frac{\Phi_2}{\Phi}= \frac{\nu _{T2}}{\nu_{T1} - \nu_{T2}} $$
(9)
$$ \frac{\Phi_2}{\Phi}= \frac{\nu _{T2}}{\nu_{T1} - \nu_{T2}} $$
(10)$$ \frac{\nu_1}{\nu_{T1}} = \frac{\nu_2}{\nu_{T2}} $$
(10)
(10)$$ \frac{\nu_1}{\nu_{T1}} = \frac{\nu_2}{\nu_{T2}} $$

Note: For these equations, the power of the elements in the system is at the center of the waveband being used and the index used is at the reference wavelength.

 


参考資料

  • Schwertz, Katie, Dan Dillon, and Scott Sparrold. "Graphically Selecting Optical Components and Housing Material for Color Correction and Passive Athermalization." SPIE Proceedings Vol. 8486: Current Developments in Lens Design and Optical Engineering XIII, October 11, 2012.
  • Schwertz, Katie, Adam Bublitz, and Scott Sparrold. "Advantages of Using Engineered Chalcogenide Glass for Color Corrected, Passively Athermalized LWIR Imaging Systems." SPIE Proceedings Vol. 8353: Infrared Technology and Applications XXXVIII, May 31, 2012.

書誌

  1. Tamagawa, Yasuhisa, Satoshi Wakabayashi, Toru Tajime, and Tsutomu Hashimoto. "Multilens System Design with an Athermal Chart." Applied Optics 34, no. 33 (December 1, 1994): 8009-013.
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